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2012/10/19 第157回東南アジアの自然と農業研究会のご案内

■□第157回東南アジアの自然と農業研究会のご案内□■
共催:京都大学地域研究統合情報センター・複合共同研究ユニット
「自然と人の相互作用からみた歴史的地域の生成」

日時:平成24年10月19日(金) 16時より
場所:京都大学総合研究2号館4階 447会議室
*通常と会場が異なります、ご注意ください。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm (上記サイト地図中34番の建物4階・東側です)

話題提供者:風間計博 氏(京都大学大学院人間・環境学研究科)

題目:
サンゴ島の自然条件下におけるミズズイキ栽培
―中部太平洋キリバス南部におけるイモ・人間・土地―

【要旨】
サンゴ礁の島と聞けばたいていの人は、緑豊かな熱帯の楽園を思い浮かべるに違いない。楽園幻想は、島の辺縁にサンゴ礁を擁する火山島や陸島(いわゆる「高い島」)をロマン化したものであろう。しかし、サンゴ礁のみからなる環礁や隆起環礁(いわゆる「低い島」)を一瞥すれば、楽園幻想とは相反する過酷な現実が見えてくる。
低平で狭小な島々は、サンゴ礁が海面からわずかに離水しただけの陸地である。白色の表土はサンゴ由来の砂礫に覆われ、土壌が未発達であり、保水力は弱く降雨があっても水は即座に土中へ吸収される。淡水の利用可能性や塩分等が制限要因となり、「高い島」に比較して植物相を構成する種数は限られ、バイオマスも小さい。たいていの陸生生物の生存にとって厳しい自然条件を構成する。当然、人間にとっても同様であり、サンゴ島をエクメネとアネクメネの境界線上に位置づけることが可能である。
サンゴ島における作物栽培に関連して、本発表の主題は2つある。第一に、サンゴ島の特殊な自然条件下で生活を維持するにあたり、住民はいかに食料を生産してきたのだろうか。ただし今日では、遠隔の島であっても、米・小麦粉や缶詰等、外国からの輸入食料が人々の生活を支えている。そこで第二に、生活様式が大きく変容した現代のサンゴ島において、在地の食料生産はいかなる論理によって維持されているのだろうか。
さて、サンゴ島において魚介類は人々の重要な食料であるが、それのみを消費して生存することは難しい。何らかの方法でイモ等の食料を入手する必要がある。まず近隣に「高い島」がある場合、カヌーを使った交易によって、イモやサゴ澱粉を入手することが可能だった。一方、絶海の孤島や、近隣にサンゴ島のみしかない場合、サンゴ島の自然条件下で植物性食料を生産する必要に迫られたはずである。
本発表で採りあげるキリバスは、「高い島」を含まずサンゴ島のみからなる諸島であり、さらに降水量が不安定でしばしば旱魃に襲われてきた。とくに赤道からわずかに南に位置する島々は、人間の居住する各地のサンゴ島のなかでも、おそらく最も厳しい自然条件下にあると考えられる。こうした島々で人間が生活するにあたって、他地域では見られない食料生産に関わる特異な知識・技術が創出されてきた。
「高い島」では通常見向きもされない植物が、サンゴ島では重要な食料資源として栽培されることがある。本発表で採りあげるミズズイキ(Cyrtosperma chamissonis)もそのひとつであり、たとえばフィジーのある島では、沼地で野生化して繁茂するのを見ることができる。ところが、キリバス南部ではミズズイキ栽培のために、人々は地下淡水層に到達するまで地面を掘り、多大な労力を投じて掘削田を作ってきた。さらに、掘削田のなかで丁寧に施肥を繰り返しながら、何年もかけて大きなイモに育てあげるのである。
イモを大きく生育させる栽培者は、その知識・技術を称賛される。それ故、ミズズイキ栽培の知識・技術は、近い親族内で秘匿されてきた。ただし、主食を輸入食料に依存する今日、キリバス南部の日常生活において、収穫されたイモが自家消費されることはほとんどない。主として、集会所における饗宴時の食料や儀礼的交換財として利用されている。
サンゴ島の自然条件下、かつてミズズイキのイモ生産は生存のために必須だった。しかし今日、イモを生産せずとも人々は生活することができる。社会経済状況が変化するなかで、掘削田の多くが放棄され、知識・技術の継承が途絶えて栽培法は簡素化される傾向にある。一方、人々はイモ生産をやめることなく維持し続けている。キリバス南部の人々にとってミズズイキ栽培は、土地と自らとの結びつきを強化し、人と人とをつなぐ媒介項となっているのである。

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連絡先:
佐々木 綾子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
e-mail: sasaki22@asafas.kyoto-u.ac.jp
柳澤 雅之(京都大学地域研究統合情報センター)
e-mail: masa@cias.kyoto-u.ac.jp
研究会WEBサイト http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/seana/information.html
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