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2016/06/10~2016/06/10 研究会「2016年フィリピン大統領選挙を考える」

概要:
 2016年5月9日にフィリピンで大統領選挙が行われた。中央選挙管理委員会公認の非公式集計によれば、犯罪の撲滅などを訴え過激な発言で知られる元ダバオ市長のロドリゴ・ドゥテルテが他の候補者を大きく引き離して大統領当選が確実になった。同時に行われた副大統領選挙では、約20年にわたって開発独裁を進めたマルコス元大統領の息子ボンボン・マルコスを与党のレニ・ロブレドが僅差でリードしたまま開票が続いている。未集計分の多くは海外不在者の投票で、海外ではマルコス支持の傾向があるために副大統領選の決着は最後までもつれる可能性があり、かつてエストラーダが弾劾により大統領を辞任して副大統領のアロヨが大統領に昇格した経験から副大統領選の行方に注目が集まっている。(公式の集計結果は5月23日に発表予定。)
 フィリピンがこの数年間に高い経済成長率を維持しているにもかかわらず現政権の後継者が大統領に選ばれなかったことについて、経済成長の恩恵にあずかれない貧困層が現政権にノーを突きつけたとの解説も聞かれるが、選挙前に行われた世論調査でドゥテルテは富裕層・中間層から貧困層まで各層から支持を集めており、階層間の対立という図式では理解できない。また、フィリピン政治でよく語られる有力家族どうしの競合という見方も、現政権が後継者の一本化に失敗したことの説明にはなっても、ドゥテルテが多くの支持を得たことを十分に説明できない。しかし、従来の切り方でうまく説明できない事態が生じているときにそれをポピュリズムと呼んでしまうのは、自分の理解が及ばないことを人々に合理的な判断ができないことにすり替えているだけで、人々が何を考えて決断し行動したのかについて理解を深める助けにはならない。
 フィリピンの対中関係や対日・対米関係、フィリピン・インドネシア・マレーシアの国境管理、ドゥテルテが掲げる連邦制の導入などがこれからどうなるのかといった関心もあるが、フィリピンの外交や内政についての分析や予測は別の機会に譲ることにして、この研究会では、過激な発言ばかりに目を奪われることなく、2016年の大統領選挙・副大統領選挙(および同時に行われた国政・地方統一選挙)でフィリピンの人々が何を考えて何を選択したのかを検討の対象にする。
 したがってこの研究会は狭い意味での選挙分析に限らずフィリピン社会についてさまざまな側面から考える場としたいが、今回の大統領と副大統領の選挙に関しては次のようなことがらに関心が向けられるだろう。
 大統領選挙に関して、階層、地方、宗教、民族などの切り方や有力家族どうしの競合などの従来の見方だけではドゥテルテへの支持が十分に理解できないのだとしたら、どのような切り方をすればドゥテルテへの支持と不支持を理解することができるのか。
 副大統領選挙に関して、「独裁者」マルコス元大統領の息子が副大統領候補に立候補し、マルコス時代には開発や福祉が進んだとして父親の統治を肯定的に総括した上で選挙戦に臨み、ほとんど副大統領になるところまで支持を得たことを踏まえて、30年前のピープルパワー革命およびその後のフィリピンの歩みについてどのように評価しなおすべきなのか。
 また、国境を越えた移動・移住が増えている状況で国外在住者は出身国の国政にどのように関わりうるのか。フィリピンでは在外不在者投票についてきめ細かな制度が整えられているが、在住フィリピン人が多いにもかかわらず在外不在者登録者数が目立って少ない国もある。これらの国ではどのような事情で在外フィリピン人の投票が妨げられているのか。
 公式集計結果が出ていないために得られる情報は限定的だが、上に挙げたような疑問をもとに、各分野を専門とするフィリピン研究者がそれぞれの知見を持ち寄ることで、選挙を通じて見えてくるフィリピン社会のあり方を考えてみたい。

日時:2016年6月10日午後2時30分~午後5時30分
場所:京都大学地域研究統合情報センター・セミナー室(京都大学稲盛財団記念館2階)
     アクセス:アクセスマップ

プログラム:
◇趣旨説明・問題提起 山本博之(京都大学)
◇フィリピン選挙概説 日下渉(名古屋大学)
◇話題提供 なぜ「家父長の鉄拳」が支持されたのか
・日下渉「マニラにおける社会階層の視点から」
・木場紗綾(同志社大学)「都市貧困層から見るフィリピン選挙」
・細田尚美(京都大学)「東ビサヤ地方の市民生活から見る政治と選挙」
・宮脇聡史(大阪大学)「選挙における教会と教会にとっての選挙」
・宮原暁(大阪大学)
◇総合討論

参加申し込み:
参加をご希望の方は下記まで事前に下記までご連絡ください。なお、会場スペースの都合で申し込み多数の場合は参加を締め切らせていただくことがありますことをあらかじめご了承ください。
問い合わせ先:西芳実(ynishi[a] cias.kyoto-u.ac.jp [a]は@)