代表: | 林行夫(京都大学地域研究統合情報センター・教授) |
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共同研究員: | 李仁子(東北大学大学院教育学研究科・准教授)、王柳蘭(京都大学地域研究統合情報センター/日本学術振興会RPD)、木曽恵子(東北大学東北アジア研究センター・教育研究支援者)、北村由美(京都大学東南アジア研究所・助教)、小西賢吾(京都大学大学院人間・環境学研究科・博士後期課程)、城田愛(大分県立芸術文化短期大学国際文化学科・専任講師)、園田節子(神戸女子大学文学部・准教授)、比留間洋一(静岡県立大学大学院国際関係学研究科・助教)、藤本透子(京都大学大学院人間・環境学研究科・研修員)、山田孝子(京都大学大学院人間・環境学研究科・教授)、吉田香世子(京都大学地域研究統合情報センター・研究員(科学研究))、渡邉暁子(東洋大学社会学部社会文化システム学科・助教 |
期間: | 平成21年6月1日~平成22年3月15日 |
目的: | 近年のトランスナショナルマイグレーションやディアスポラ研究の立場から、国境や地域社会についてのナショナルな分析枠組みを問い直す作業が注目されている。本研究は移動者の論理と在地の論理が交錯する場として地域を捉え、移動者の視点を重視しつつも両者の相互接触の諸過程からあらたに出現する政治的・経済的・宗教的・文化的な越境空間の実態を解明し、移動研究と地域研究を架橋すべく近未来の地域編成の在り方を検証することを目的とする。 具体的には越境空間の生成のダイナミズムを①移動元と移動先の双方のネットワークや有形・無形の文化・社会的資源(宗教、言語や民族的諸文化とその知識)の利用、開発、相互循環から解明する、②移動者と在地社会の相互接触の諸過程(遭遇・抵抗・受け入れ/排除)の歴史的動態に着目し、双方の視点が交差するなかで生じる政治的、経済的、社会・文化的諸問題ならびにそれが地域形成に与える影響を多角的に検討する。③「移動性」を移動者自身の言説と社会的、文化的諸条件、歴史や世代間の差異に着目し、均質的に捉えられてきた「移民」像や物理的・単線的な移動パターンを脱構築し、社会―存在論的な移動性の解明を試みる。 |
研究の意義: | これまで自然地理的な環境によって規定される地域の固有性とその形成論理に対する地域研究は多く蓄積されてきた(高谷[1996]、坪内編[2000])が、人の移動性から地域の実態を解明する試みはいまだ不十分である(坪内[2009])。本研究は移動者によって創出される政治的、経済的、宗教的、文化的越境空間に焦点をあて、多領域における最新の調査から比較考察することによって、移動が地域に与える影響とローカルな文脈で生じる政治・経済・宗教的問題を解明し、既存の制度や国家枠組みによって規定された地域概念を再考するうえで学術的意義がある。と同時に、移動と地域の動的関係を移動者と在地側の双方の論理から相補的に検証する本研究の手法は、時代や地域を越えて広くみられてきた「先住民 vs(後発)移民」をめぐる諸問題に対する捉えなおしと具体的な提言が可能であり、研究を社会に還元していくうえでも実践的な意義を有する。また、移動者固有の論理とそれを支えるミクロ―マクロな社会的文化的歴史的条件や諸環境を究明することにより、これまで不問にされてきた「移動性」に対する多義的理解と移動をめぐる諸力学・パターンの地域間比較が可能となる。 |
期待される成果 将来の展開 について: |
代表者は、移動研究と地域研究の融合をめざすべく、平成20年度に「移動と共生が創り出すミクロ・リージョナリズム――東アジア・東南アジア地域研究の融合にむけて」の研究会を実施した。その最大の成果は、共同研究メンバーそれぞれが専門とする地域における移住や移動を、移動者が知覚している文化的社会的なミクロな経験と、その経験されたものを基礎づけているマクロな政治文化的環境の双方の二重の視点から議論できたことである。こうした問題意識を継承・発展させつつ、本研究では異質性と流動性を地域にもたらすアクターとしての移動者の視点を積極的に取り込み、等質的な景観として描かれがちな地域の概念を再考するだけではなく、これまで議論が不足していた移動者と在地社会の相互の接触過程(遭遇・抵抗・受け入れ/排除)も考慮し、双方の政治的経済的文化的諸力学や戦略をクロスオーバーさせて検討し、地域形成の動態の解明と比較研究が期待される。 なお、単年度の本研究会が扱う地域は参加者が研究対象とする東・東南アジアに限られているが、研究会の実施にあたっては他の地域で移動、移民を扱う学外のプロジェクトからの研究者を適宜加えて、「越境・空間・地域秩序」について地球規模での地域間比較の視点を探ることを試みる。そのような研究者の情報交換とネットワークを築くことで、越境空間からみた地域秩序の再編や創出のメカニズムを解明する共同研究(個別研究ユニット)へ発展させていく。 |
研究実施計画: | 本研究会では、上記の研究目的のもと、各時代や地域に応じて形成されている政治・経済・文化・宗教的越境空間とそれが地域動態に及ぼす影響や地域形成の動態、そこから引き出される在地・移動者双方の諸問題を議論する。 共同研究者は越境・移動をテーマにもつ中国、日本、韓国、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム、カザフスタン等とその国境域を対象にした文化人類学と歴史学のディスプリンをもつ若手研究者で主に構成される。 研究面では、①国境をめぐる域内外の移動を中心テーマにおきつつ、国内の移動も含めて議論することで、「越境」「移動」の当事者性とそこからみえるあらたな地域像を探り、既存の国境や地域についての概念を相対化していく。②さらに研究テーマを、(1)宗教(2)家族とジェンダー、(3)民族的ネットワークの3つの個別領域に分けて相互の有機的連携を図ると同時に、統合的に越境と地域の動態を捉えていく。 なお、本共同研究は年4回の研究会を実施する。人類学と歴史学による学際的ネットワークの基盤形成と異分野間研究者交流の拡大を意図し、上述のように研究会には共同研究員による報告のみならず、関係するテーマや研究関心を持つ研究者に参加を呼びかけ、論点を整序しつつ議論を深める。 |
研究成果の 公開計画: |
研究成果を以下8に述べる東北大学などの他研究機関における移民研究会などとの共催によって合同シンポジウムを企画し、他の移動・移民を扱う研究者や院生にも公開することによって、あらたな移動研究の方法論や課題を検討するばかりではなく、ますます流動化、多元化していく現代日本社会に向けて積極的な提言ができるよう商業出版等において成果をとりまとめ、発信していく。こうした国内における研究成果の公開ならびに出版等による発信によって、将来的には国際研究プロジェクトの実施に向けた研究協力体制を整えていくことも可能となる。 |
関連 プロジェクト: |
本研究会は移民・移動研究者の情報共有と学術的交流を進めるため、研究会の相互連携の強化を目指す。すなわち、東北大学東北アジア研究センターにおける東アジアにおける移民の比較研究ユニット・「比較移民研究会」(李仁子代表)と連携・協力し、多角的な視野をもった移民研究の可能性を開拓する。 |