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「「民主化」と体制転換の地域間比較研究」(h19~h21)

過去の研究プロジェクト

「「民主化」と体制転換の地域間比較研究」(h19~h21)

複合共同研究ユニット
代表: 村上勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 押川文子(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、帯谷知可(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、小森宏美(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、末近浩太(立命館大学国際関係学部・准教授)
期間: 平成19年4月~平成22年3月 (3年間)
目的:  1970年代半ばからの「民主化の波」とその後の政治情勢を受け、これまで、「民主主義移行」論、「民主主義定着」論、ネオポピュリズム論、さらには、民主主義が根付いていないとの認識から「準民主主義」、「半民主主義」、「委任型民主主義」、「低強度民主主義」、「競争的権威主義」、「選挙権威主義」などの「形容詞付き民主主義ないし権威主義」論、といった議論が提起されてきた。しかしそれらは、先行する現状を後追いする形で提起され、十分に検証されないままに使用されているように見受けられる。ここで地域の事例に立ち返って「民主化」以降に提起された議論を検証し、その射程と限界を明らかにすることが必要とされるゆえんである。他方、80年代末から1990年代にかけて体制転換を経験し、すでにEU加盟を果たした東中欧に関しては、果たして民主主義が定着したのか、定着したとすればその性格はいかなるものなのか、また民主化への道筋は他地域と比較可能なものなのかなど、議論すべき点が多々残されている。本研究では、東中欧、中東、ラテンアメリカなどを対象に、これまでの研究状況とその議論を検証し、「『民主化』と体制転換」を題材に地域間比較研究の枠組み構築に向けての議論を行う。同時に、選挙結果データベースの作成を開始し、データが集まっている幾つかの国を中心にそのモデルを作成し、公開することを目指す。
研究実施状況: -平成19年度-
 本年度は、4月21日に合同研究会を実施し、個別共同研究ユニットが研究対象としている地域を中心とした4地域の研究動向や研究関心を共有するとともに、複合共同研究ユニットとしての方向性を模索する機会を持った。その後、各戸別共同研究ユニット毎に研究活動を行った。「現代中東における国家運営メカニズムの実証的研究と地域間比較」研究プロジェクトと「ポスト社会主義諸国の政党・選挙データベース作成」研究プロジェクトは3回の研究会、「現代アンデス諸国における社会変動」研究プロジェクトは1回の研究会と1回のワークショップを開催した。
-平成20年度-
 本年度は、個別共同研究ユニット毎に研究活動を行うとともに、個別共同研究ユニットを基盤とした研究活動の試みとして、「ポスト社会主義諸国の政党・選挙データベース作成」ユニットと「ポスト新自由主義時代のラテンアメリカにおける国家・社会関係の動態に関する比較研究」ユニットが協力して「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会を立ち上げ、11月と3月の2回にわたり研究会を実施した。
 具体的な実施状況は次の通り。
●第1回研究会
 日時:11月22日(土曜日) 13:30~18:10
 会場:メルパルクKYOTO6階会議室4
 研究報告: 林忠行(北海道大学)「中東欧諸国における政党システム形成の比較─『基幹政党』の位置取りを中心にして─」
 村上勇介(京都大学)「ポスト新自由主義時代のラテンアメリカにおける政党システムの変容」
 中田瑞穂(名古屋大学)「チェコ共和国における市民社会組織の政治的機能」
 上谷直克(日本貿易振興機構アジア経済研究所)「ラテンアメリカにおける『市民社会』組織の政治的潜在力と限界」
●第2回研究会
 日時:3月20日(金曜日) 13:00 ~18:10
 会場:稲盛財団記念館中会議室
 研究報告: 藤田護(東京大学・院)「ボリビアの政治について考えるべき課題とは何か」
 新木秀和(神奈川大学)「先住民運動と政治社会の関係─エクアドルを中心に─」
 月村太郎(同志社大学)「民族紛争をどう管理するか─旧ユーゴの諸事例を中心に─」 
 久保慶一(早稲田大学)「旧ユーゴ諸国における少数民族の政治参加─政党政治を中心に─」
-平成21年度-
 本年度は、個別共同研究ユニット毎に研究活動を行うとともに、個別共同研究ユニットを基盤とした研究活動の試みとして、昨年度発足させた「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会を継続して実施した。7月と3月の2回にわたり研究会を実施した。
 具体的な実施状況は次の通り。
●第1回研究会
日時:2009年7月18日(土曜日) 14:00 ~17:00
会場:北海道大学 スラブ研究センター小会議室
報告:中東欧とラテンアメリカにおける福祉国家の再編
 「アルゼンチンにおける福祉国家の変容と連続(仮題)」 宇佐見耕一(アジア経済研究所)
 「中東欧諸国における福祉制度の再編(仮題)」 仙石学(西南学院大学)  コメント 小川有美(立教大学)
●第2回研究会
日時:2010年3月28日(日曜日)
会場:京都大学地域研究統合情報センター(稲盛財団記念館内) 3階中会議室
テーマ:「中東欧およびラテンアメリカにおける新自由主義再考」
報告者および報告タイトル
第1セッション(10:30~12:30) 新自由主義と政治過程
 「東中欧諸国政党政治における新自由主義の諸相」林忠行(北海道大学)
 「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透度の差異と政治変動」村上勇介(京都大学)
第2セッション(13:20~15:20) 政治経済的視点からの新自由主義
 「新生ロシアにおける体制転換と民営化:国有企業の「資本主義企業化」をめぐる考察」  安達祐子(上智大学)
「新自由主義後ブラジルの所得分配と経済成長」濱口伸明(神戸大学)
研究成果の概要: -平成20年度-
 本複合共同研究ユニットを構成する各々の個別共同研究ユニットの研究成果については、当該報告書の通りであるので、ここでは繰り返さない。以下では、個別共同研究ユニットをまたぐ地域間比較研究の試みとして始めた「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会について概要を記す。
 同研究会は、2回にわたり開催された。最初の研究会では、「政党制の比較分析」と「市民組織と市民社会」をテーマとして各々2つの報告がなされた。第2回研究会では、「エスノポリティクスの現在」に関する4つの報告があった。
 政党制に関しては、中東欧について、共産党の支配が終焉した後に実施された2回目の選挙以降、2大政党ないし2大ブロック競合システムへ政党政治が収斂する傾向が見られることが報告された。他方、ラテンアメリカについては、新自由主義が批判される全般的な転換の過程で、先発工業化国の多くで政党システムが安定化するのに対し、後発工業化国の間ではそれが不安定化する傾向が観察されることが指摘された。
 市民組織と市民社会に関する議論では、中東欧をめぐって、体制移管後に市民社会組織の数は増加しているものの市民参加が少ない傾向があることが示され、ただ、人権、環境などに関連したアドヴォカシー組織は、民主主義を補完・深化させ、また既存の枠組みに収まらない課題に答える機能を有している点が指摘された。また、ラテンアメリカの事例では、新自由主義からポスト新自由主義へと流れが変わる中で、体制転換期から登場した市民組織が大きく政治を動かし、政権に就く例も生じているが、市民社会の確立や民主主義の定着に直結するとは言えない状況が生じていることが披露された。
 エスノポリティクスについては、体制転換以降、先住民運動が政治に影響を及ぼした最初の事例のエクアドルと、先住民運動を主体とする勢力が政権に就き、現在、政治的に最も揺れているボリビアを題材に、ラテンアメリカにおいて、民主制の条件の下、歴史的に不利な立場に置かれてきた先住民運動が台頭してきた政治過程が紹介された。他方、中東欧に関しては、エスノポリティクスの問題が先鋭的に現れた旧ユーゴスラビアを対象として、民族紛争が、分離独立、覇権的支配や領域的支配による「民族国家」化、多極共存などにより一定の代償を伴いつつ管理されるかされつつある態様が示された。さらに、民族政党化する国と多民族政党が台頭する国があり、その差は、選挙制度の影響、また政策争点や利益誘導と業績誇示のあり方の違いに起因することが提起された。
エスノポリティクスの展開について、ハプスブルグ帝国期とスペイン帝国期の相違(前者がエスニックグループの存在を認めていたのに対し、後者は統一のイデオロギーが強かった)によるポストコロニアル段階で直面する課題の違いを考慮する必要があるとの指摘に見られたように、中東欧とラテンアメリカを比較する視角を精緻化させることが課題である。そうした点や実証における不十分な点については、平成21年度より、本研究に関連した科学研究費補助金が承認されたことから、現地調査を実施しつつ向上を図る所存である。
-平成21年度-
 個別研究ユニットの活動を展開するなかから、中東欧とラテンアメリカを比較する研究活動を継続的に進めることとなった。その背景には、両地域が、工業化が開始されたのが1930年代前後だったといった歴史的背景にくわえ、社会格差、貧困問題、政治腐敗、ポピュリズム的な運動の広がりなど、「民主化」以後に同じような構造を抱え類似の問題に対処しようとしていることがある。つまり、民主主義の定着に関する条件を検討する、あるいは一般的に民主主義の定着に必要とされる条件、地域固有の問題との連関を考えるうえで最適な事例となると期待できたためである。政党制、市民社会、エスノポリティクス、新自由主義といった具体的なテーマに関し両地域の状況を比較した。
そうした比較を通じ、「民主化」や体制転換の後の政治過程を比較分析するには、あらかじめアクターと行動がゲーム論的に規定された一定のモデルを前提とした議論を構築してきた多くの先行研究のようなアプローチは有用性に乏しく、社会経済的面での構造的、歴史的条件をも視野に入れて動態分析を実施する必要性が痛感された。
例えば、中東欧では、共産党の支配が終焉した後、2大政党ないし2大ブロック競合システムへ政党政治が収斂する傾向が見られるのに対し、ラテンアメリカでは、新自由主義が批判される全般的な転換期にあって、先発工業化国の多くで政党システムが安定化する一方、後発工業化国の間ではそれが不安定化する傾向が観察される。こうした相違を分析する場合、「民主化」や体制転換前の旧体制における制度や政策、社会主義体制の経済戦略(輸出主導工業化)と権威主義体制の経済戦略(輸入代替工業化)のもたらした帰結の違いについて比較することで、新たな視角からの分析につながる可能性がみえてきた。
また、エスノポリティクスについても、ハプスブルグ帝国期とスペイン帝国期の相違(前者が多元的だったのに対し、後者は統一的、一元的なイデオロギーが強かったこと)によるポストコロニアル段階で直面する課題の違いを考慮することも重要ではないかとの認識が共有された。
公表実績: ●出版
 仙石学・林忠行編『体制転換の先端的議論』スラブユーラシア研究報告集No.2、北海道大学スラブ研究センター、2010年。
●学会分科
 日本比較政治学会第12回(2009年度)大会 分科会 B「ラテンアメリカと中東欧の政党システム比較」 京都大学 2009年6月27日。
研究成果公表計画
今後の展開等:
 2年後を目処に、中東欧とラテンアメリカを比較した研究書の刊行を目指している。また、本研究は、平成22年度から始まる新しい複合共同研究ユニット「新自由主義の浸透と社会への影響に関する地域間比較研究」として、一層の展開と深化を図る。