代表: | 落合雪野(鹿児島大学総合研究博物館・准教授) |
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共同研究員: | 白川千尋(国立民族学博物館先端人類科学研究部・准教授)、松田正彦(立命館大学国際関係学部・准教授)、柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、横山智(熊本大学文学部・准教授) |
期間: | 平成19年4月~平成21年3月 |
目的: | 人やモノ、情報、技術が地域社会にもたらされた瞬間、そこではどのような変化がおきるのだろうか。そして、たとえ同じような人の移動、モノ・情報・技術の導入であっても、なぜ、それらがもたらす変化は地域によって異なるのだろうか。本研究では、さまざまな民族が共住し、国境線が入りまじり、自然環境条件だけでなく、社会経済的条件が多様な東南アジア大陸部を対象にして、人・モノ・情報・技術のフローに着目し、それらのフローが地域社会と衝突した瞬間そこに生じる反応のダイナミクスから、多様な地域社会の特性を明らかにすることを目的とする。地域社会の特性を明らかにするためには、地域の歴史的経緯を十分に理解することは必要不可欠であるが、歴史的結果としての人・モノ・情報・技術の受容形態を考察するのではなく、フローに対する地域社会の反応から分析することにより、地域社会の特性を、より動態的に理解することを目的とする。 |
研究実施状況: | -平成19年度- ●第1回研究会、7月15日、京都大学地域研究統合情報センター メンバーのベトナム、ラオス、ミャンマーにおけるこれまでの調査から、本研究が対象とすべき人・モノ・情報・技術のフローについて、具体的な事実や現象を抽出した。 ●第2回研究会、9月20日、国立民族学博物館 第1回研究会の結果をもとに研究全体の構成を検討し、国境拠点における生業活動調査と健康管理と生活文化の通地域的調査によって地域と事象を相互に関連付けることを決定した。 ●第3回研究会、10月19日、立命館大学 中国とベトナム、ラオス、ミャンマーの3国との間の移住や国境貿易、社会変容にかわる先行研究について、その手法や成果を検討した。 ●第4回研究会、3月15、16日、熊本大学 国境周辺における生業の変化、とくに農業や森林資源の利用について、メンバーがラオス、ミャンマー、ベトナムの事例を紹介した。さらに、世界全体における国境問題の現状について情報を収集した。 -平成20年度- 本年度は以下5回の研究会を開催し、報告と討論を行った。 ●第1回研究会、2008年6月13、14日、鹿児島大学 江戸時代、東シナ海を経て中国からフローを受容してきた薩摩藩や日明貿易の拠点となった坊津港に着目し、東南アジア大陸部における状況と比較した。 ●第2回研究会、2008年9月27日、京都大学 松田正彦「ミャンマー調査報告-土地利用の変容」 Gianluca Bonanno(立命館大学大学院国際関係学研究科) “Grater Mekong Sub-Region, the chequered road to development: an eye on the GMS” 王柳欄(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科) 「タイ北部山地における華人ネットワークの形成と地域社会の変容」 野本敬(学習院大学人文科学研究科) 「中国陸路移民の南遷-雲南から東南アジアへ」 ●第3回研究会、2009年2月12日、京都大学 白川千尋「ラオス調査報告-マラリア対策のための医薬品や資材のフロー」 柳澤雅之「ベトナム調査報告-農業技術のフロー」 ●第4回研究会、2009年2月19日、熊本大学 落合雪野「ラオス調査報告-ハンディクラフトのフロー、素材と商品をめぐって」 横山智「ラオス調査報告-森林産物のフローと定期市」 ●第5回研究会、2009年3月25日、京都大学 鄧応文「中越国境貿易の歴史と現在」 |
研究成果の概要: | -平成19年度- 本研究の成果は、東南アジア大陸部における人・モノ・情報・技術のフローについて、課題と到達点を具体的に検証したことにある。 課題1 国境の拠点はフローの凝集と拡散にどのような役割を担っているのか。 ムセー(ミャンマー)、ボーテン(ラオス)、ラオカイ(ベトナム)をフローの重要拠点と位置づけ、労働者や仲買人の移動、森林産物や農産物の売買、人的ネットワークを利用した情報伝達、農業技術の普及について詳細な情報を収集し、相互に比較する必要がある。 課題2 中国製工業製品のフローは地域社会にどのような影響を与えているのか。 地域住民の健康管理と開発援助に関連した医薬品の流通、生活文化と観光産業に関連した民族衣装の変容の2項目をとりあげ、通地域的な事象として把握する必要がある。 到達点 本研究では、国家による政策決定やグローバルな経済原理だけでは把握しきれない地域の動態を、地域社会の目線から描き出すことを目指す。これによって、世界全体を対象に、国家と国家の狭間に位置する地域社会の実態を動態として理解するための方法論を確立する。 -平成20年度- 2008年度の成果は、フローの源として重要な位置を占める中国雲南省について、移住や経済開発等に関する情報を得たこと、また、科学研究費補助金研究「『大国』と少数民族―東南アジア大陸部における中国ヘゲモニー論を超えて」(研究代表者:落合雪野)によってメンバーが実施した現地調査を通じ、2007年度に抽出した2課題に取り組んだ成果を共有し、統合したことにある。 全体を通じて、人・モノ・情報・技術が、地域社会の多様な条件の中で新しい形態やしくみを創出しつつ、地域社会そのものを変容させながら受容される過程を分析するための手がかりや視角を抽出することができた。今後、さらに自然環境保護や開発政策がもたらすインパクト、情報インフラの改善がもたらすインパクトなど、同一の政策やグローバリゼーションの影響が地域によって異なるインパクトなどについてさらに検討を続け、地域社会の開発や政策の基礎的な資料を提供したい。 |
公表実績: | -平成19年度- 落合雪野 2007.「飾る植物―東南アジア大陸部山地における種子ビーズ利用の文化」松井健編『資源人類学 第6巻 自然の資源化』弘文堂123-159. 落合雪野 2007. 「生きもの博物誌 ジュズダマ―観光資源としての植物」『月間みんぱく』11月号:21-21. 落合雪野 2007.「トラベリング・ミュージアム-研究成果を共有するためのこころみ」『地域研究コンソーシアム・ニュースレター』2号:13-15. 白川千尋 2008.『人類学と国際保健医療協力』 明石書店(松園万亀雄、門司和彦との共編)白川千尋 2008.「国際医療協力における文化人類学の二つの役割」松園万亀雄・門司和彦・白川千尋編『人類学と国際保健医療協力』明石書店 pp.61-86。 松田正彦 2007. 「ミャンマー・シャン州北部におけるハイブリッド稲作の拡大」『熱帯農業』51(別2):37-38. 松田正彦 2007. 「ミャンマー稲作の中長期的展開―生態区と農業開発政策の視点から」『熱帯農業』51(別2):35-36. 松田正彦 2007. 「農業技術からみたミャンマー稲作―中国国境からの技術変容」(ビルマ研究会.東北学院大学.2007年5月.) 柳澤雅之 2008 「生態関連特集1」『ベトナムの社会と文化』7号、ベトナム社会文化研究会編、pp.159-245 東京:風響社 横山智・落合雪野編 2008.『ラオス農山村地域研究』めこん 横山智 2008.「タイ・ラオスのエスニック社会」 山下清海 編 『日本と世界のエスニック社会明石書店, 176-187. 横山智 2007.「途上国農村におけるバックパッカー・エンクレーブの形成―ラオス・ヴァンヴィエン地区を事例として―」『地理学評論』 80(11), 591-613. Tanaka, Koji, Satoshi Yokoyama and Khame Phalakhone. 2007. ‘Land Allocation Program and Stabilization of Swidden Agriculture in the Northern Mountain Region of Laos’, in Saxena, K. G., Liang, L. and Rerkasem, K. (eds.) “Shifting Agriculture in Asia: Implications for Environmental Conservation and Sustainable Livelihood”, 407-420, Dehra Dun (India): Bishen Singh Mahendra Pal Singh. -平成20年度- 1)学会発表 落合雪野・横山智2008「ラオス北部山村の住民による焼畑をめぐる生業活動-空間認識と植物利用からのアプローチ-」2008年6月22日第18回日本熱帯生態学会年次大会(東京大学、文京区) 横山智・落合雪野2008「ラオス北部農村の土地利用と生活の変化-開発援助と拡大する中国経済による影響-」2008年6月22日第18回日本熱帯生態学会年次大会(東京大学、文京区) 落合雪野2008「ナガ・ニューイヤー・フェスティバルに集う人びと-ジュズダマ属の利用に関する一視点」2008年7月19日民族自然誌研究会第52回例会(京都大学、京都市) Yanagisawa, M. 2008. “Comments on Forest-based production systems in Mainland Southeast Asia”, International Workshop on “Towards sustainable land-use in tropical Asia” The Association for Tropical Biology and Conservation, 23rd-26th April 2008, Kuching, Sarawak, Malaysia 柳澤雅之, 「自然生態資源の利用における地域コミュニティ・制度・国際社会」、京都大学地域研究統合情報センター ・全国共同研究ワークショップ「地域がかえる制度、制度がかえる地域: 資源と国家をめぐって」、2008年4月26日~27日、京大会館 柳澤雅之, 「複合共同研究「自然生態資源の利用における地域コミュニティ・制度・国際社会」」, 京都大学地域研究統合情報センター平成19年度全国共同利用研究報告会, 2008年4月27日、京大会館 柳澤雅之、「東南アジア大陸部における資源管理国家体制の比較」、京都大学地域研究統合情報センター平成19年度全国共同利用研究報告会, 2008年4月27日、京大会館 柳澤雅之、「コメント:東南アジア生態史の構築に向けて」、第79回東南アジア学会セッション『東南アジア生態史の構築に向けて』、2008年6月8日、大阪大学 柳澤雅之、「地域社会の制度や社会に埋め込まれた自然環境条件を探る」、地域研究方法論研究会(第1回)(京都大学地域研究統合情報センター共同研究会『地域研究方法論』)、2008年11月14日、東京大学 柳澤雅之、「地域研究は科学か?」、地域研究方法論研究会(第2回)(京都大学地域研究統合情報センター共同研究会『地域研究方法論』)、2009年2月10日、早稲田大学 横山 智 2008.「ラオスの無塩発酵大豆食品の伝播に関する文化地理学的考察」 『2008年人文地理学会大会研究発表』 2008年11月,筑波大学. 横山 智 2008.「消えるラオスの焼畑」 『日本地理学会2008年秋季学術大会』 2008年10月, 岩手大学. 横山 智 2008. Political Ecology of Livelihood and Land Use in Rural Laos “The 31st InternationalGeographical Congress (IGC)” Aug. 2008, Le Kram, Tunis, Tunisia. 横山 智 2008.「ラオスの森林区分と時空間マッピングの展望」『京都大学地域研究統合情報センター共同研究会 共同研究ユニットII:地情報資源共有化プロジェクト「大陸部東南アジア仏教圏の文化実践の動態をめぐる時空間の位相」2008年度第2回研究会』 2008年8月, 奈良市猿沢荘. 横山 智 2008. NTFP Trading and Livelihood Change under the Progress of Globalization in the Northern Mountainous Region of Laos 『ラオスの自然と生業のダイナミクス:東南アジア大陸山地部研究会および東南アジア大陸部における土地利用変化のメカニズム』 2008年7月, 京都大学東南アジア研究所. 横山 智 2008.「ラオスの無塩発酵大豆食品「トゥアナオ」の伝播に関する文化地理学的考察」 『第1回 東南アジアの生態史研究会』 2008年6月, 総合地球環境学研究所. 2)論文等 横山 智 2008.「書評 “People on the Move: Rural-Urban Interactions in Sarawak”(Ryoji SODA)」『地理学評論』 81(7), 605-607. Matsuda, M. (印刷中)Dynamics of rice production development in Myanmar: Growth center, technological changes, and driving forces. Tropical Agriculture and Development 53 田中耕司,松田正彦.(印刷中)ミャンマー・シャン州中国国境域における稲作の変容―浸透する米増産政策と国境を超える農業技術.『農耕の技術と文化』27 落合雪野「ドメスティケーションの過程と結果をめぐる試論―東南アジア大陸部のジュズダマとハトムギを事例に―」国立民族学博物館研究報告『ドメスティケーション―その民族生物学的研究』印刷中 白川千尋 2009 「World Watching from Laos-ルアンナムター蚊帳事情」 『みんぱくe-news』 92号(http://www.minpaku.ac.jp/e-news/backnumber.html)。 落合雪野・小坂康之・齋藤暖生・野中健一・村山伸子2008「五感の食生活―生き物から食べ物へ」論文集『モンスーン・アジアの生態史―地域と地球をつなぐ 第1巻 生業の生態史』弘文堂,203-224. 横山 智・落合雪野・広田 勲・櫻井克年 2008.「焼畑の生態価値」 河野泰之 編・秋道智彌 監修 『生業の生態史(論集 モンスーン・アジアの生態史-地域と地域をつなぐ- 1)』 弘文堂, 85-100. 横山 智・富田晋介 2008.「ラオス北部における農林産物の交易」 ダニエルス, C. 編・秋道智彌 監修 『地域の生態史(論集 モンスーン・アジアの生態史-地域と地域をつなぐ- 2)』 弘文堂, 101-120. 横山 智・長谷千代子 2008.「周辺化された地域の観光地化―ラオス北部と中国・雲南省の地域変容」 秋道智彌 編・監修 『くらしと身体の生態史(論集 モンスーン・アジアの生態史-地域と地域をつなぐ- 3)』 弘文堂, 165-186. 横山 智 2008.「タイ・ラオスのエスニック社会」 山下清海 編 『エスニック・ワールド-日本と世界のエスニック社会』 明石書店, 176-187. 横山 智 2008.「エスニック・ツーリズム」 山下清海 編 『エスニック・ワールド-日本と世界のエスニック社会』 明石書店, 188-189. |
研究成果公表計画 今後の展開等: |
平成21年度共同研究会「ストックとフローからとらえる東南アジア大陸部山地:自然資源利用におけるストック概念の再検討」(代表:松田正彦 立命館大学准教授)において、自然資源に焦点をあてた議論を継続する予定である。 |