1. ホーム
  2. 研究活動
  3. 過去の研究プロジェクト
  4. 大陸部東南アジア仏教圏の文化実践の動態をめぐる時空間の位相(h19~h20)

大陸部東南アジア仏教圏の文化実践の動態をめぐる時空間の位相(h19~h20)

過去の研究プロジェクト

大陸部東南アジア仏教圏の文化実践の動態をめぐる時空間の位相(h19~h20)

個別共同研究ユニット
代表: 林行夫(京都大学地域研究統合情報センター・教授)
共同研究員: 阿部健一(総合地球環境学研究所・研究推進戦略センター・教授)、小林知(京都大学東南アジア研究所・助教)、柴山守(京都大学東南アジア研究所・教授)、高橋美和(愛国学園大学人間文化学部・准教授)、田中耕司(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、土佐桂子(東京外国語大学外国語学部・教授)、永田好克(大阪市立大学大学院創造都市研究科・准教授 )、西本陽一(金沢大学文学部・准教授)、長谷川清(文教大学文学部・教授)、原正一郎(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、星川圭介(京都大学地域研究統合情報センター・助教)、柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成19年4月~平成21年3月
目的:  大陸部東南アジア上座仏教徒社会を対象に、宗教をふくむ文化実践の動態を時空間の位相の下に情報化し、専門が異なる研究者間で共有・共創できる「仕掛け」を築く。同地域の住民は、森林原野を農地と集落および精霊の領域に分けることを慣習化してきたが、精霊の領域は人口増加と未耕地の減少や国民国家と市場経済で縮小し、国家が統制する仏教の下で精霊は悪霊として扱われるようになる。他方で、同地域で卓越する仏教徒のあいだでは、僧俗ともに寺院や聖地をめぐる移動がみられた。本研究は、こうしたローカルな営みを生きるための「資源」に関わる実践と捉え、その連鎖を地域住民と環境の相互作用の歴史的結果とみなす。特定地域での住民の営みを、異なるディシプリンと地域間比較の観点から広義の文化実践として検討するとともに、その地域を住民の行動の観点から浮き彫りにし、地域に通底する論理を読み解く手法を、情報学を介して確立することを試みる。さらに、同地域の民族誌や臨地調査で得られたデータを統合する「時空間マッピング」(データの所在や分布を時空間的に示す地図とともに地図上から詳細な関連事項にアクセスできる機能を持つシステム)を構築することをめざす。
研究実施状況: -平成19年度-
 初年度となる平成19年度では、三度で計四日の研究会を実施、報告は14の報告がなされた。
第1回研究会(2007年6月30日 13:30-18:30 京大地域研究統合情報センター3階会議室)
 1 「研究会の位置づけと課題」(林行夫・原正一郎:京大地域研)
 2 「空間情報で読み解くハノイ都市形成過程」柴山守 (京大東南アジア研究所)
 3 「『云南県志』データベースについて」久保正敏 (国立民族学博物館)
 4 「東北タイの寺院マッピングの試み」 林行夫 (京大地域研)
第2回研究会(2007年11月17日 13:30-18:30 京大地域研究統合情報センター3階会議室)
 1 「<地域の情報>とエスノグラフィ―PNC報告をかねて」林行夫(京大地域研)
 2 「カンボジア仏教寺院の時空間分析の展望」小林知(京大学東南アジア研究所)
 3 「ミャンマー仏教徒社会の情報データ化の展望」土佐桂子(東京外国語大学)
 4 「フィールド調査と「理系的」アプローチ―近代的畑地灌漑と東北タイの伝統的灌漑を対象として」星川圭介(京大地域研)
第3回研究会(2008年2月2-3日 金沢市)
 1 「西双版納における仏教復興の動態―寺院、仏塔、僧侶の統計データが語るもの」長谷川清(文教大学)
 2 「カンボジア俗人仏教徒の<寺院入り>とライフコースに関する時空間分析の展望」高橋美和 (愛国学園大学)
 3 「近代カンボジアにおける仏教改革運動と寺院壁画―文献資料と図像資料から」笹川秀夫 (立命館アジア太平洋大学)
 4 「東南アジア大陸部・西南中国山地民ラフの宗教マッピング―祭祀空間とその変化」西本陽一 (金沢大学)
 5 「歴史資料に基づいた空間解析―神社の景観解析の事例研究」原正一郎(京大地域)
 6 「時間に基づいた情報解析とツール」関野樹 (総合地球科学研究所)
 * 討論1<各報告に関連する総合討論> *討論2 <文理モザイク型協同をめざして>
-平成20年度-
 二年度目となる2008年度では、三度で計五日の研究会を実施、報告は22の報告がなされた。
●第1回研究会(2008年5月24日 13:30-18:30 京大地域研究統合情報センター3階会議室)
1 「本年度研究会の目標と計画」(林 行夫:京大地域研)
2 「EcoNETVIS Site Navigation―東北タイの遺跡GISと現地での活用のために」永田好克(大
阪市立大学)
3 「東北タイにおけるコメ生産の変容―情報学的手法による前世紀の実像」星川圭介(京大
地域研)
4 「XMLを利用した日本古典史料の英日連携全文検索システムの構築」桶谷郁夫(大阪国際
大学)
●第2回研究会(2008年8月1-2日 奈良市)
1 「移民の飛び地研究を越えて―中国雲南系ムスリムの空間生活史理解へ向けて」 王柳蘭(京
大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
2 「地域情報システムについて」 原正一郎(京大地域研)
3 「ラオスの森林区分と時空間マッピングの展望」横山智(熊本大学文学部)
4 「討論<『アジア遊学』特集号「地域情報学」をめぐって>」
5 「地域研究と情報学」 田中耕司(京大地域研)
6 「云南徳宏地区の仏教徒社会と時空間マッピングの展望」小島敬裕(京大大学院アジア・
アフリカ地域研究研究科院生)
7 「大陸部東南アジア生活世界マッピング構想」林行夫(京大地域研)
第3回研究会(2009年3月13-14日 熊本市)
1 「時空間マッピング共同研究<第一期総括>にむけて」林行夫(京大地域研)
2 「寺院の復興とサンガの動態―雲南省西双版納の現地調査(2008年)で見えてきたもの」
長谷川清(文教大学)
3 「中国雲南省徳宏地域における寺院と出家・在家者の活動」小島敬裕(京大アジア・アフ
リカ地域研究研究科院生)
4 「ビルマ語文献資料にみる僧院と出家者の移動」土佐桂子(東京外国語大学)
5 「1920~1940年代のフランス語版官報にみるカンボジア仏教関連記事」笹川秀夫(立命館
アジア太平洋大学)
6 「ラフ族の宗教マッピング予備調査報告―祭祀空間を中心に」 西本陽一(金沢大学)
7 「東北タイ仏教寺院類型・僧侶の遍歴と移動――時空間分析の可能性」柴山守(京大東南
アジア研究所)
8 「タイ国立公文書館文書にみる20世紀初頭タイ仏教界の空間的動態」星川圭介(京大地域
研)
9「北タイの農産物契約栽培―ショウガ栽培における山地民と日本の関係」横山智(熊本
大学)
10 「東北タイにおける一開拓農村の成立と移入」永田好克(大阪市立大学)
11 「情報学と地域研究の邂逅」原正一郎(京大地域研)
研究成果の概要: -平成19年度-
 初年度計画の最大の目的は、同地域を専門とする自然科学系をふくめた地域研究者と情報学系の研究者とが、それぞれの専門や対象地域を越えて密に対話を重ねることにあった。研究会では、地域研究者はそれぞれの臨地調査で得られたデータにもとづく報告を行い、情報学の立場からはそれらを時空間的に分析するための手法が呈示され、相互に意見交換と議論を重ねた。また、既存のデータベースや進行中のプロジェクト、実証研究にもとづくマッピングモデルの紹介を通じて、フィールドで得られた素材や文献にある記述をいかに情報化していくか、また、何が情報となるのかについて、それぞれの素材とともに検討を重ねることができた。本研究会で共有されつつある認識は、人間の行為とその結果をふくむ諸現象を時空間の位相におとしこんでマッピングする過程の技術的な局面に限らず、地域の動態を表象する情報が何を指標として顕現しうるかという意味論のレベルに跨る。具体的な作業を導いていくキーワードとしては、寺院や祠堂から祭祀空間、聖地や移動と広がりつつあり、扱う主題も東南アジア大陸部や仏教徒社会を越える射程もみえはじめた。
-平成20年度-
 本共同研究は、初年度(2007年度)においては、同地域を専門とする自然科学系をふくむ地域研究者と情報学系の研究者とが、それぞれの専門や対象地域を越えて密に対話を重ねることに中心的な目標とした。三回(計四日)で計14本の報告発表を実施した研究会では、地域研究者はそれぞれの臨地調査で得られたデータにもとづく報告を行い、情報学の立場からはそれらを時空間的に分析するための手法が呈示され、相互に意見交換と議論を重ねた。さらに、既存のデータベースや進行中のプロジェクト、実証研究にもとづくマッピングモデルの紹介を通じて、フィールドで得られた素材や文献にある記述をいかに情報化していくか、また、何が情報となるのかについて、それぞれの素材とともに検討を重ねた。その結果、人間の行為とその結果をふくむ諸現象を時空間の位相におとしこんでマッピングする過程の技術的な局面に限らず、地域の動態を表象する情報が何を指標として顕現しうるかという意味論のレベルに跨るということを共有しえた。また、具体的な作業を導いていくキーワードとしては、寺院や祠堂から祭祀空間、聖地や移動と広がり、東南アジア大陸部や仏教徒社会を越える主題や視座もみえはじめた。
 こうした成果を受けた今2008年度においては、本共同研究と連動するかたちで採択・実施された科研調査(基盤A[1]海外)での成果報告をもとに、モデル研究の構築をめざしてより具体的な検討を重ねた。とりわけ、寺院の立地と僧侶の移動遍歴にかんする聴き取りにもとづくデータについては、前年度までのタイのみならず、ラオス、中国云南省(西双版納、徳宏)およびカンボジアから定量データが加わった。調査が不可能なミャンマーや植民地期カンボジアについては、僧侶名鑑や官報などの文献資料や地図を駆使したデータベース作成を進め、フィールド資料との統合を試みることにもなった。それらの作業は2010年度まで続く科研での課題となった。二年間で計36本の研究報告とその議論を通観すると、本共同研究は、当初目指した分析モデルや統合的なデータベースを完成させるには至らなかったものの、それを構築する際の問題点と議論の方向を明確にすることができた。すなわち、各地域のフィールドで得た資料をもちこみ、地域研究と情報学との混淆とからみ合いをめざす試みを重ねる過程で、フィールド資料を時空間マッピングデータとするためのコンテンツの整序法および分析プログラムの開発には、相互に連関する多様な段階があることを、地域内および地域間の比較を可能にするデータ化の過程と認識論上の問題とともに確認することができた。最後の研究会を終えて、データ・マイニングとは研究者を含む見る側が自明視する研究の前提や視点を客体化して読みかえ、見る者を新しい地平へと誘う体験であることが、情報系と地域研究者の双方においで共有されることとなった。時空間マッピングデータは、特定主題を扱いつつも、地域から世界(地球と人類)をみるための社会・文化研究の基礎を築くとともに、現実の記録を後代に継承していく仕掛である。こうした認識を相互に得た点でも、本共同研究は次の段階へと飛躍するための重要な試金石となったといえよう。
公表実績: -平成19年度-
 研究会メンバーの多くが参加・発表した国際会議と一般図書(予定)は以下である。
1 ”Area Studies, Then and Now” PNC Annual Conference and Joint Meetings, UC Berkeley, USA 18-20 October, 2007.[研究代表者を含む発表要旨が同名のプロシーディングスに所収]
2 「地域情報学の創出」『アジア遊学』特集号(2008年8月20日刊行予定)
3 研究会の成果の一部は、以下の国際人類学民族学連合会議で発表予定。
The16th Congress of IUAES (July 15-23, 2008. Kunming, China)
Y. Hayashi. Mapping the Practices: Towards a Study of Theravadin in Yunnan in Comparative Perspective.
K. Hasegawa. . Buddhist Revival and Identity: A Case Study on the Dai (Tai Nua) in the Mong Mao District of Dehong Prefecture, Yunnan Province.
 -平成20年度-
 研究会メンバーの多くが参加・発表した一般図書や国際会議は以下である。
1 「地域研究と情報学」『東南アジア研究』特集号(2009年3月31日刊行予定)
2 『<境域>の実践宗教――大陸部東南アジア地域と宗教のトポロジー』(林行夫編・京都大学学術出版会、2009年2月25日)
3 『アジア遊学(特集――地域情報学の創出)』113号(2008年8月20日)
4 ”Area Studies, Then and Now” PNC Annual Conference and Joint Meetings, UC Berkeley, USA 18-20 October, 2007.[研究代表者を含む発表要旨が同名のプロシーディングスに所収]
5 開催延期となった以下の「国際人類学民族学連合会議」で、共同研究成果の一部を発表要旨として公表
The16th Congress of IUAES (July 15-23, 2008. →2009年7月開催へ:Kunming, China)
Y. Hayashi. Mapping the Practices: Towards a Study of Theravadin in Yunnan in Comparative Perspective.
K. Hasegawa. . Buddhist Revival and Identity: A Case Study on the Dai (Tai Nua) in the Mong Mao District of Dehong Prefecture, Yunnan Province.
研究成果公表計画
今後の展開等:
 本共同研究で当初予定していながら完成することができなかった時空間分析モデルや統合的データベースを完成させることによって、本共同研究の成果公表としていきたい。とりわけ、2010年度まで継続する科研プロジェクトからのプロダクトをコンテンツとする。同時に、その成果をもとにさらに地域を広げた比較研究の展望をもって、2010年度以降に新たな共同研究計画へと発展させる予定である。