代表: | 村上勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授) |
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共同研究員: | 新木秀和(神奈川大学外国語学部・准教授)、出岡直也(慶應義塾大学法学部・准教授)、内田みどり(和歌山大学教育学部・准教授)、浦部浩之(獨協大学国際教養学部・准教授)、遅野井茂雄(筑波大学大学院人文社会科学研究科・教授)、狐崎知巳(専修大学経済学部・教授)、坂口安紀(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター・副主任研究員)、住田育法(京都外国語大学外国語学部・教授)、高橋百合子(神戸大学大学院国際協力研究科・准教授)、田中高(中部大学国際関係学部・教授)、二村久則(名古屋大学大学院国際開発研究科・教授)、山岡加奈子(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター・研究員) |
期間: | 平成20年4月~平成22年3月 |
目的: | ラテンアメリカは、他の発展途上地域に先駆けて、1970年代後半からグローバル化の一環でもある「民主化」と市場経済化が進んだ。それは、経済のマクロ的発展と安定や民主的な政治の枠組の維持、新たな政治勢力の台頭などをもたらした一方、19世紀初頭の植民地からの独立以来抱えてきた貧困や格差といった構造的問題を悪化させた。伝統的に脆弱な国家の機能が低下する中、政党や組合、政治・社会運動など中間媒介組織の変容と再編が生じるとともに、社会的連帯の弛緩と社会紛争の激化により政治が流動化し、民主的な政治の枠組が揺らいできた。そして、構造的問題を含む社会経済面での悪化は、新自由主義路線の見直しを迫り、それを支持する「左派」勢力が多数派となるポスト新自由主義の時代が既に始まっている。本研究は、歴史的、構造的な視角からラテンアメリカ主要国の国家・社会関係の展開を考察する縦軸と、それらを比較する横軸の研究を有機的に組み合わせ、ポスト新自由主義時代に入っている現在のラテンアメリカの国家・社会関係を立体的に分析し、その現代的位相を解明する。そして、その成果を踏まえ、他地域との比較研究のための枠組構築に関し考察する。 |
研究実施状況: | -平成20年度- 本年度は、研究会の開始に当たっての打ち合せ会合を4月に開催した後、7月と10月に研究会を行った。また、アンデス諸国の事例について、6月に国際シンポジウムを開催した。他方、複合共同研究ユニット「『民主化』と体制転換の地域間比較研究」の枠組みで2回にわたり実施された「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会へ協力・参加した。 本研究の具体的な研究会の実施状況は次の通り。 ●第1回研究会 日時:4月12日(土曜日)13:30~17:00 会場:京都大学地域研究統合情報センター3階会議室 内容:「研究の進め方について」全員討論 ●第2回研究会 日時:7月12日(土曜日)13:30~17:30 場所:京都大学東京事務所(JR東京駅サピアタワー10階) 研究発表:住田育法(京都外国語大学)「ポスト新自由主義とルーラ政権の実像」山岡加奈子(日本貿易振興機構アジア経済研究所)「社会主義の多様性─キューバとベトナムの国家・社会関係比較─」 ●第3回研究会 日時:10月11日(土曜日) 13:30~17:30 会場:法華クラブ(JR京都駅烏丸口徒歩1分)会議室フィオーレ(地下1階) 研究発表:田中高(中部大学)「ネオリベラリズムは『悪』か?─エルサルバドルとニカラグアの事例─」新木秀和(神奈川大学)「コレア政権下の政治・社会関係─新憲法の動向を中心に─」 -平成21年度- 本年度は、5月と12月に研究会、10月にセミナーを行った。他方、複合共同研究ユニット「『民主化』と体制転換の地域間比較研究」の枠組みで2回にわたり実施された「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会へ協力・参加した。 本研究の具体的な研究会、セミナーの実施状況は次の通り。 ●第1回研究会 日時:2009年5月30日(土) 13:30~17:30 場所:京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛記念財団記念館2階213) 発表課題および発表者: 「ウルグアイの政党システムと拡大戦線の台頭」内田みどり(和歌山大学) 「チリの政党政治と市民社会―2009年12月選挙を前に―」浦部浩之(獨協大学) ●第2回研究会 日時:2009年12月19日(土) 13:30~16:30 場所:筑波大学東京リエゾンオフィス特別会議室 発表課題および発表者: 「大統領選挙をめぐるボリビアの国家社会関係の再編」遅野井茂雄(筑波大学) 「第2期ガルシア政権下の国家社会関係」村上勇介(京都大学) ●セミナー 「アルゼンチンにおける高齢者と高齢者生活」 日時:2009年10月19日(月) 14:00~17:00 場所: 京都大学稲盛財団記念館3階中会議室 講師:マリア・フリエタ・オドネ(Mar?a Julieta ODDONE) (FLACSO ラテンアメリカ社会科学大学院) アルゼンチン校 |
研究成果の概要: | -平成20年度- 研究プロジェクトの初年度であることから、まず第1回目の研究会で、研究の方向性に関し意見交換を実施した。本研究の先行プロジェクトであるアンデス諸国の研究に関する成果に鑑み、政党と政党システムを重要な切り口として比較分析する方向性が研究代表者により提示された。それに対し、大方の共同研究者は肯定的だった。また同時に、経済政策やその変化と程度の点についても十分に注意を払う必要があることが提起された。そこで、以上の観点を考慮に入れつつ、研究会を進めることとなった。 第1回目の研究会では、現代の「左派」の中の穏健派を代表するブラジルのルーラ政権と、ラテンアメリカ左派の元祖と言えるキューバの社会主義体制が取り上げられた。前者に関しては、その成り立ちの経緯を振り返った上で、急進派の代表、ベネズエラのチャベス大統領と共通する思想的背景を持つルーラが、経済面などで現実的な思考を示している例が紹介された。後者については、国家の強度という観点から、ベトナムと比較することを通してキューバの特徴が描かれた。具体的には、地理的社会的多様性、伝統的共同体の有無、社会政策、対外的脅威、市民社会の強さ、経済の中央集権度といった観点から測ると、キューバの国家はベトナムよりも強い存在であると論じた。 第2回目の研究会では、中米のエルサルバドルとニカラグアの事例から新自由主義の意義を再考する分析と、急進左派の代表の1つ、エクアドルのコレア政権の動向に関する報告がなされた。最初の報告では、左派の台頭といっても、有権者自身は自らを左派とは定義しておらず、明確なイデオロギーに裏打ちされたものではない点が確認された後、内戦を経験した中米が肥大化した軍を縮小するためには新自由主義路線が必要だった面があることが指摘された。エクアドルに関する報告では、経済を中心とする政策面ではレトリックほど急進的ではない点が言及され、未だ支持を得ているコレアが、手続きの面での合意やコンセンサスの形成に無関心の下、新憲法の起草と国民投票を実施した経緯が紹介された。 いずれの報告でも、分析のために使われた基本的な概念をめぐる質疑と議論が展開した。その過程では、今後、議論を深めて行く課題も残った。平成21年度から、本研究に関連した科学研究費補助金による現地調査が可能となったので、現地調査を踏まえて分析を精緻化することを目指す所存である。 -平成21年度- 昨年度に引き続き、「左派」勢力台頭の背景の分析と現状について、ウルグアイ、チリ、ボリビア、ペルーの事例を中心に検証を行った。また、アルゼンチンを例に、高齢者福祉に関するセミナーを開催した。 ウルグアイについては、伝統的な二大政党制が新自由主義の時代に入り動揺し、特に、それを支えていた一翼が左派勢力に取って代わられる過程が徐々に展開し、至近の選挙で左派政権が誕生したことが報告された。そして、様々な問題を抱えつつも、現政権の人気が高いことから、近々行われる選挙では、与党が再選される可能性が高いことが指摘された(これは、実施された選挙で現実のものとなった)。 チリについては、1990年の民政移管以後、政権の座にある、中道から左派までの連合組織が、内部での不協和音が次第に高まる一方、新自由主義路線のもとで興った新中間層が、むしろ保守的な勢力を支持する傾向が生じていることが指摘された。これは、昨年末から今年にかけて行われた大統領選挙で、保守系野党の候補が当選したことで、民政移管以来、初めての政権交代を生んだ。 他方、ボリビアとペルーでは選挙は行われなかったが、左派政権の直面する困難な状況が報告された。ボリビアでは、社会運動を背景とする勢力が現政権を支えていることから、そうした社会運動に対する「報い」を大統領は与えなければならず、国家が社会再分配や社会発展の機能を十分に果たすまでに至っていないことが指摘された。同時に、与党自体は、野党勢力に対し一部、勢力を拡大していることも報告された。ペルーについては、穏健な左派の現政権が、国家発展に向けた基本的な方針や計画を結局、打ち出すことができず、旧態依然たる、ただし以前と比べると小規模の、パトロン・クライアント関係に基づく利益誘導に没頭しており、全体として、政治の分裂化が様々なレベルで進んでいることが報告された。 |
公表実績: | ●国際シンポジウム「ポスト新自由主義時代のアンデス諸国─社会変動の比較研究─」 日時:2008年6月14日(土曜日)~15日(日曜日) 会場:京都大学百周年時計台記念館2F国際交流ホールIII |
研究成果公表計画 今後の展開等: |
2年後を目処に、研究書を刊行することを計画している。また、本研究は、新年度から始まる個別共同研究ユニット「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」で研究の展開と深化を図るほか、科学研究費補助金「国家社会システムの転換と政党の変容・再生」による現地調査を並行して実施し、実証面からも精度を高める所存である。 |