代表: | 王柳蘭(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・助教) |
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共同研究員: | 李仁子(東北大学大学院教育学研究科・講師)、木曽恵子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・博士後期課程)、小西賢吾(京都大学大学院人間・環境学研究科・博士後期課程)、城田愛(大分県立芸術文化短期大学国際文化学科・専任講師)、園田節子(神戸女子大学文学部・准教授)、陳暢(京都大学大学院 人間・環境学研究科・博士後期課程)、橋本章(京都大学大学院人間・環境学研究科・修士課程二回生)、比留間洋一(静岡県立大学大学院国際関係学研究科・助教)、山田孝子(京都大学大学院人間・環境学研究科・教授)、吉田香世子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・博士後期課程)、渡邉暁子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・博士後期課程) |
期間: | 平成20年4月~平成21年3月 |
目的: | 従来、移動者や移民は狭義のマイノリティ研究や一国史研究のなかで国家の多数派から排除され、あるいは国家に包摂されることなく閉ざされた地域社会の中で独自の文化秩序にもとづいて地域社会を作り上げてきた集団として理解されがちであった。とりわけ、移動者・移民が国民国家のヘゲモニーを掌握できずに周縁化された場合、彼らはしばしば国家や地域を形成する主体ではなく、あくまでも二次的な存在として位置づけられ、あるいは地域とは関係性が薄いrootlessな人びととして認識される傾向があった。 こうした問題点を踏まえ、本研究では公的・制度的な地域とは区別して、移動者・移民によって築き上げられる文化的・宗教的・経済的・民族的ネットワークの累積としての地域とその生活圏・生活世界を「ミクロ・リージョン」と概念化し、さまざまな社会的背景と連動する移動に着目することにより、従来の「排除/包摂」といった図式によって移民と地域の関係を捉えるのではなく、多様なネットワークによって複合化しかつ流動化しつつある地域の現状を理解することをめざす。具体的には、移動者・移民を対象にして、彼らが移動から定着のプロセスのなかで積極的に地域との関係性を作り上げていく諸行為とその戦略やメカニズムに着目し、既存の制度によって区画された公的空間が、移民自らによってどのように生活の場として読みかえられ、意味づけられていくのかを明らかにしていく。 |
研究実施状況: | -平成20年度- 計4回の研究会を行った。発表者は11名で、発表タイトルは以下のとおり。 ●第1回 5月17日(土) ①吉田香世子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程) 「出家行動と移動の経験―北ラオス村落社会の事例から」 ②渡邉暁子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程) 「フィリピンの多民族・多宗教状況におけるムスリム女性のネットワーキング ―家族と婚姻戦略を中心に」 ●第2回 7月5日(土) ①陳暢(京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程) 「現代中国に生きるマイノリティの生存戦略―雲南西双版納・アカ族の移動から」 ②木曽恵子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程) 「東北タイ農村における労働移動をめぐる社会的評価 ―1970年代以降の女性の移動を中心に」 ●第3回 9月20日(土) ①比留間洋一(静岡県立大学) 「ラオス・ルアンパバーンにおけるベトナム人社会の一段面―フランス領時代に移住した 人々の近現代史」 ②園田節子(神戸女子大学) 「1880年代南北アメリカ華民の自治構造と在外公館―ミクロ・リージョンとしての移民社会-本国間関係の形成」 ●第4回 2009年1月16日(金) ①小西賢吾(京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程) 「僧院のつながりが支える僧侶教育の再構築―中国四川省のチベット系社会の事例から」 ②成瀬千枝子(関西学院大学非常勤講師) 「マレーシア華人のエスニシティの変容―『文化節』を事例として」 ③石井弓 (東京大学東アジアリベラルアーツ・イニシアティブ(EALAI)) 「日中戦争の記憶と視覚イメージ」 2009年1月17日(土) ④山田孝子(京都大学大学院人間・環境学研究科教授) 「今日のチベット社会にみる地域主義と汎チベット主義」 ⑤李仁子(東北大学大学院教育学研究科助教授) 「女性の移住と子育てネットワーク―在日ニューカマー女性たちの試みを事例に」 |
研究成果の概要: | -平成20年度- 本研究会では、東アジアと東南アジアをおもに対象とする人類学と歴史学をディスプリンにもつ若手研究者を中心に、アジアと東南アジアの宗教、労働、ジェンダー、民族組織等のテーマについて、移動と地域社会の動的かつ史的関係や地域を取り結ぶ移動者の生活世界について議論を行った。その概要は、①近現代の各地域毎に、移動者によって結ばれる生活圏としての「地域」像が、どのように変容したのか、②流動的に変化する地域の範囲が、外からの「ひと」の移動あるいは移民の役割・影響とどう関わるか、③上記の①と②に関連して、移動者が作り出す「ミクロ・リージョン」、すなわち、ミクロな生活圏がどのような文化的メカニズム・論理や工夫・戦略によって維持・調整されているのか、あるいはマクロな政治的、経済的変化のなかでどのように変容・展開しているのかを比較・検討した点にある。 また本研究会は、移民・移動研究についての専門家が幅広く多様な地域における移動・移民 現象を理解することをめざして、東北大学東北アジア研究センターにおける「比較移民研究会」(李仁子代表)と連携研究を進めてきた。これまで、東北アジア研究センター側が開催した研究会に計2回、本班の共同研究員から3名が参加し、口頭発表を行った。このように2つの研究会が相互に連携することを通して、東南アジアと東アジアを専門にする移動・移民研究者のネットワーク作りを行うことを試みた。 |
公表実績: | -平成20年度- 研究成果公開の計画は以下のように予定している。 1.ジャーナル『地域研究』において特集企画を連載する見込みである。 2.2009年度の日本移民学会において、代表者の王柳蘭ならびに共同研究員の園田節子と李仁子を軸に、その他3名の地域研究者とともに「移動」をキーワードーに分科会セッションを設ける(内定済み)。 |
研究成果公表計画 今後の展開等: |