代表: | 新井一寛(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・研究員) |
---|---|
共同研究員: | 飯田卓(国立民族学博物館・助教)、池田有日子(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)、石倉敏明(多摩美術大学芸術人類学研究所・副手)、岩谷彩子(広島大学大学院社会科学研究科・准教授)、岩谷洋史(総合地球環境学研究所・非常勤研究員)、葛西賢太(宗教情報センター・研究員)、風戸真理(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)、川瀬慈(日本学術振興会・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・研究員・特別研究員)、川瀬貴也(京都府立大学文学部・准教授)、北村皆雄(ヴィジュアル・フォークロア社・代表)、坂川直也(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・博士後期課程)、シッケタンツ・エリック(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程博士課程・RA)、清水拓野(東京大学大学院人文社会系研究科グローバルCOE「死生学の展開と組織化」研究拠点・非常勤講師)、高尾賢一郎(同志社大学大学院神学研究科・博士後期課程)、高岡豊(財団法人中東調査会・研究員)、中島岳志(北海道大学公共政策大学院・准教授)、中西嘉宏(日本貿易振興機構アジア経済研究所・東南アジアIIグループ・研究員)、弘理子(ヴィジュアル・フォークロア社・社員))、見市建(岩手県立大学総合政策学部学部・講師)、南出和余(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)、丸山大介(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・博士後期課程)、横田貴之(日本国際問題研究所・所員) |
期間: | 平成20年4月~平成22年3月 |
目的: | 本共同研究の目的は、昨年度同様に大きく次の2点に集約される。第一は、現代社会における、宗教、ナショナリズム、「癒し」の複合構造の解明である。ここでは、20世紀後半以降、世界各地で活発化している宗教復興現象を、宗教ナショナリズムから「癒し」までを射程に入れ、その複合構造を、映像実践を通じて通地域的・宗教的に解明する。第二は、「映像地域研究」手法の開発である。ここでは、宗教を研究対象とした地域研究における有効な映像実践を追求することを通じて、映像実践を通じた新たな地域研究手法(映像地域研究)を開発する。 |
研究実施状況: | -平成20年度- 本共同研究は、計6の研究会を実施した。第一回研究会(2008年6月28日)では、中東と東南アジアのイスラーム過激主義の映像実践の事例から、プロパガンダ、布教、育成、暴力性、伝播、流用などについて議論した。第二回(7月5日)では、映像人類学的方法論の宗教研究への応用について議論した。第三回(10月4日)では、宗教実践者(天理教)とテレビ関係者を招き、広報、宗教番組、アルタナティブ・メディア、公共性、営利、視聴者などについて議論した。第四回研究会(12月26日)では、研究者と映像作家の映像表現に注目して、見えないもの、言葉にしえぬもの、Aestheticsなどについて議論した。第五回(12月26日)では、第五回では、研究者の映像実践の事例から、儀礼の映像化、音楽と映像表現、フィールドワークと映像・音、インフォーマントとの共同について議論した。第六回(3月14日)では、宗教実践を通じた宗教体験の内在的理解を実践している研究者と映像作家、およびインタラクィブ・メディア開発者を招きCGの活用も視野に入れた、内的宗教体験の映像化について幅広いメディアを視野に入れた議論を行った。 -平成21年度- 昨年度と同様に6回の研究会を実施した。後半の4回は主に上記目的の第二に関係するが、宗教に限らずより広く映像の可能性について追及した。第7回では、共同研究員の坂川とエリックが発表し、劇映画や宗教表象などをキーワードに議論した。第8回では、共同研究員の葛西と榎本が発表し、Conversionや不確定性などをキーワードに議論した。第9回では、共同研究員の内田と村尾を中心に人類学映画の現状と展望について議論した。第10回では、地域研究におけるドキュメンタリー映画活用の問題点と可能性を検討した。第11回では、申請者がパネリストの一人として、映画祭と大学の協力関係などについて追及した。第12回では、共同研究員の柳沢を中心に、視覚イメージと音の関係について議論した。また、第9回から昨年度末まで、共同研究員には主に成果出版物にあたる『映像と宗教』の原稿執筆に専念してもらい、そこでのやりとりを通じて研究成果を練磨した。さらに、リーズ大学で開催された1st International Visual Methods Conferenceでは、申請者が代表として分科会を組織した。 |
研究成果の概要: | -平成20年度- 本共同研究のひとつの特徴は、映像ジャンルと映像実践方法論の整理に向けた第一歩として、映像実践主体に注目し、その主体を研究者、宗教実践者、映像作家・報道機関の3つに分けた点である。研究者の映像実践については、第二回研究会で映像作品の基本的文法と作品制作過程に注目した。ここでは、映像内容の主観・客観性、検証可能性、代表性と、それらを考慮した制作過程における現地調査論、組織論に関する現状を把握し、今後の課題を明らかにした。第四回では、映像表現の可能性に特に注目して、映像による伝達・認知の有効性が高い表現内容について検討し、当該分野の技術的・理論的見通しをつけた。 第六回研究会では、さらに踏み込んで、宗教の内在的理解を目指す研究者(=宗教実践者)を招き、内的体験を映像化する試みについて検討することで、宗教研究におけるCGやインタラクティブ・メディアの有効性を明らかにした。 これらの研究者の映像実践における目的や想定視聴者、ポストプロダクションなどと、宗教実践者、映像作家・報道機関のそれらとの相違点を軸に、各主体の映像内容と方法論の相違を明確にした。以上は、主に上記4「研究目的」の②に関するものである。①については、第一・三回の研究会を通じて、映像メディアの発達による宗教団体の映像実践の活発化、宗教映像のグローバル化と氾濫による現代宗教復興現象の共鳴・共振、複雑化の一端を開示した。また、第五回研究会では、イメージと音の関係について検討することで、ビジュアル・イメージに注目が偏りがちであった本研究会の内容を補完することができた。 -平成21年度- 昨年度実施した第1回から第6回、および今年度実施した第7回、8回の研究会で、上記目的の第一および映像メディアの宗教性について、具体的事例に即して知見を深めることができた。映像メディアの宗教性については、当初の研究目的ではなく、昨年度の研究会を実施する過程で共同研究員のあいだで芽生えた問題関心であったが、『映像と宗教』の原稿執筆過程で、考察が深まった。また、今年度は昨年度に比べて、第9回以降の研究会の内容の通り、宗教に限定しないより広い文脈で、地域研究における映像実践に関する知見を深めることができた。この知見と前述の宗教と映像に関する研究での知見をあわせることにより、上記目的の第二(映像地域研究の構築)について、人文・社会科学におけるという限定つきではあるが、ある程度見通しをつけることができた。また後述するように、第9回以降の研究会を京都大学総合博物館秋季特別展示企画展で実施したことにより、映像実践を通じた文理融合やアウトリーチ活動などに関しても知見を深めることができたのは収穫であった。 |
公表実績: | -平成20年度- 現在までに行った計4回の研究会はすべて、共同研究員以外も参加可能にしたもので、ポスター、チラシによる宣伝を行わなかった以外は、その規模から一般公開型の小規模シンポジウムといえるものであった(共同研究員以外の参加者数は第四回研究会まででのべ100人程度)。また、電子媒体を通じた活動としては、研究会専用のホームページを立ち上げ、共同研究の内容とすでに行った研究会の記録を公開している。 ※ホームページ:http://www013.upp.so-net.ne.jp/religion_media/home.htm -平成21年度- 第9回以降は、京都大学総合博物館秋季特別展示企画展の週間企画に参画するかたちで、週間企画を4つ担当した。各週間企画の週末には一般公開型のワークショップを実施した(http://inet.museum.kyoto-u.ac.jp/expo/)。同企画展の全16週間企画のうちの4分の1を本共同研究が主導して実施したことになる。この点だけみても、本共同研究のプレゼンスを一般に示すことができた。また、本共同研究では通常の研究会も一般公開していたが、今回は企画展示の一環であったこともあり研究者以外の方々の来場もみられた。9月にはイギリスのリーズ大学で開催された1st International Visual Methods Conferenceにおいて、申請者が代表となり分科会を組織し、本研究会の成果の一端(おもに日本の人類学と地域研究において展開されている映像メソッドの最前線について)を公開した。この際、メディア研究や映像人類学/社会学の分野で世界的に著名な研究者を含む聴衆の興味を大きくひきつけた点から、本研究の内容が世界レベルでも通用することが確認できた。電子媒体での公開については従来通り本共同研究のウェブサイト(http://www013.upp.so-net.ne.jp/religion_media/home.htm)を活用した。前述の展示企画の一環として行った活動については、前掲の専用ウェブサイトで告知を行った。以上、本共同研究は、通常の一共同研究の枠を越えて活動実績を残した点で特異なものであった。 |
研究成果公表計画 今後の展開等: |
本共同研究員のほぼ全員が論文あるいはエッセイ、付録のいずれかの執筆を担当した『映像と宗教』(新井一寛、岩谷彩子、葛西賢太編、せりか書房)が今年度中に刊行されることになっている。全原稿は既に集まっており、最終校正の段階に入っている。本書の刊行をもって、本共同研究の活動は終了である。今後の展望を述べるとすれば、現状の映像メディアの技術水準での人文・社会科学における映像実践については、地域研究に限らずにある程度見通しがついているので、映像実践を通じて文理融合の地域研究を発展させること、あるいは文理融合の映像地域研究の構築であろう。 |