代表: | 篠崎香織(北九州市立大学・准教授) |
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共同研究員: | 小野光輔(㈱和エンタテインメント・代表取締役・映画プロデューサー)、宋鎵琳(株式会社エスピーオー・職員)、野澤喜美子(株式会社プレノンアッシュ・非常勤職員)、深尾淳一(映画専門大学院大学・講師)、増田真結子(株式会社小学館・国際ライツ業務室海外版権対応業務嘱託スタッフ) |
期間: | 平成22年4月~平成24年3月(2年間) |
目的: | 今日の国際社会は民族自決原則に基づく国民国家を基礎として秩序が構成されており、また、国内においてもそれぞれの国にはホストとなる単一の民族が存在することが広く受け入れられている。近年では人の移動がますます盛んになり、外国人として生まれ故郷と異なる土地で暮らす人々や、複数の民族の血統を引く混血者が現実には珍しくないという状況がありながらも、「一民族一国家」の理念があるためにさまざまな場面で外国籍や混血を理由に排除されたり包摂されたりする状況が見られる。この状況はグローバル化によって顕在化しているが、東南アジアの民族混成の新興独立国においては50年前から経験されていたことである。本研究では、政治経済ではなく文化芸術の側面で外国籍・混血者がどのように扱われてきたかを、地域研究統合情報センターが所蔵するマレーシア映画コレクションを活用して明らかにし、現代日本における状況と比較しながら、グローバル化に伴う大衆文化に見る排除と包摂の諸相を明らかにする。 | 研究実施状況: | -平成22年度- 3回の研究会を行い、国内で行われる主な国際映画祭と連携して3回の公開シンポジウムを行い、4冊のブックレットを刊行した。 (1)研究会 ・第1回研究会 報告者:山本博之「マレーシア映画の『オリジナル』性:劇映画を通じたマレーシアの『排除と包摂』の研究について」(2010年5月7日、立教大学) ・第2回研究会 報告者:篠崎香織「『マレーシア映画』と華人監督」(2010年5月30日、京都大学) ・第3回研究会 報告者:金子奈央「映画からマレーシア教育事情を読み取る」(2010年7月24日、映画専門大学院大学) (2)公開シンポジウム 福岡国際映画祭、大阪アジアン映画祭などと連携して公開シンポジウムを行った。詳細は”共同研究会に関連した公表実績”を参照。 (3)ブックレット刊行 マレーシア映画文化研究会としてマレーシア映画文化ブックレットを刊行した。詳細は”共同研究会に関連した公表実績”を参照 -平成23年度- 2回の研究会を行い、国際映画祭や学会と連携して3回の公開シンポジウムを行い、1冊のブックレットを刊行した。 (1)研究会 ・第1回研究会 報告者:増田真結子「日本のコミックと東南アジア――描かれた『タブー』への対応に見る文化の翻訳」(2011年7月30日、京都大学) ・第2回研究会 報告者:野澤喜美子「災い・個人・共同体――蔡明亮作品を読み解く」(2011年12月9日、学士会館) (2)公開シンポジウム 福岡国際映画祭、日本マレーシア学会などと連携して公開シンポジウムを行った。詳細は項目7を参照。 (3)ブックレット マレーシア映画文化研究会としてマレーシア映画文化ブックレットを刊行した。詳細は項目7を参照。 |
研究成果の概要: | -平成22年度- マレーシアは民族混成社会であるが、多数派のマレー人を描いた映画のみ「マレーシア映画」とされ、少数派を描いた作品は国内での上映が事実上制限されてきた。これに対してこの10年ほどのあいだにヤスミン・アフマド監督らによって少数派や混血者を積極的に描く作品が作られるようになり、「マレーシア映画の新潮流」と呼ばれて国際社会で高く評価されている。「新潮流」作品は、たとえば華人映画を例にとると、中華映画の手法を用いることでマレーシア国外では中華映画として高く評価されるものの、中国や香港では「純正」な中華映画ではないと見られ、そのため製作者や観客が自らのマレーシア性を自覚する契機ともなる現象が見られる。 これに対し、ヤスミン監督逝去後の近年の「新潮流」の特徴は、タイ、韓国、中国、日本など、マレーシアの枠を超えて近隣のアジア諸国の若手映画製作者と共同制作しており、「マレーシア映画」の枠を超えて「マレーシア発のアジア映画」とでも呼ぶべき作品が生み出されている。それらの作品では、従来の「マレーシア映画」とは違って民族や宗教の多様性が積極的に描かれており、国の違いを越えて東・東南アジアの国々で好評を博している。なお、日本映画ではこのようなアジアの映画製作者との共同による試みは多くないが、たとえば杉野希妃プロデューサーによる『歓待』(深田晃司監督、2011年)などに同様の試みを見出すことができる。そこでは、域外から訪れるさまざまな人々を受け入れててんやわんやとなった下町の印刷屋を舞台に、「本物とは何か」を問うことの意味が問われている。 -平成23年度- マレーシアは民族混成社会であるが、多数派のマレー人を描いた映画のみ「マレーシア映画」とされ、少数派を描いた作品は国内での上映が事実上制限されてきた。これに対してこの10年ほどのあいだにヤスミン・アフマド監督らによって少数派や混血者を積極的に描く作品が作られるようになり、「マレーシア映画の新潮流」と呼ばれて国際社会で高く評価されてきた。「新潮流」作品は、たとえば華人映画を例にとると、中華映画の手法を用いることでマレーシア国外では中華映画として高く評価されるものの、中国や香港では「純正」な中華映画ではないと見られ、そのため製作者や観客が自らのマレーシア性を自覚する契機ともなる現象が見られる。 「新潮流」はさらに、「混成アジア映画」とでも呼ぶべき作品を生み出している。マレーシア、タイ、韓国、中国、日本などアジア諸国の若手映画製作者による共同作品が数多く制作され、そこでは民族や宗教の多様性や混成性が積極的に描かれている。こうした「混成アジア映画」が現実の世界における秩序に何らかの作用を及ぼし得るかが注目されている。現実のアジアでは中国とインドという2つの大国が政治経済的なプレゼンスを高めており、映画業界でもそれぞれ確立されたジャンルを成している。これに対して混成アジア映画には、これら2つの大国、とりわけ中国を含む世界秩序のなかに自らをどう位置付けるかという課題に対するアジアの人々の答えを見出すことができる。 |
公表実績: | -平成22年度- (1)出版 ・『マレーシア映画を読む① レインドッグ』(篠崎香織・山本博之編、マレーシア映画文化研究会刊、2010年7月) ・『ヤスミン・アフマドの世界① タレンタイム』(山本博之・篠崎香織編、マレーシア映画文化研究会刊、2010年8月) ・『マレーシア映画の新潮流① タン・チュイムイ』(山本博之・篠崎香織編、マレーシア映画文化研究会刊、2010年11月) ・『ヤスミン・アフマドの世界② 細い目/グブラ/ムクシン』(山本博之・篠崎香織編、マレーシア映画文化研究会刊、2011年1月) (2)公開シンポジウム ・「ヤスミンの残したもの・それを受け継ぐ者たち:マレーシア映画から見える世界」(2010年7月25日、 立教大学池袋キャンパス) ・「アジアン・ビッグバン:マレーシア発のアジア映画の新星たち」(2010年9月18日、エルガーラホール) ・「映画『歓待』をテツガクする:主客不分明の時代における包摂と排除」(2011年3月13日、AP梅田大阪) (3)ウェブサイト マレーシア映画文化研究会ウェブサイト(http://malaysia.movie.coocan.jp/) -平成23年度- (1) 出版 ヤスミン・アフマドの世界③『ムアラフ―改心』『ラブン』(山本博之・篠崎香織編、マレーシア映画文化研究会刊、2011年7月) (2) 公開シンポジウム 『「女性らしさ」の冒険――「愛しい母」ヤスミン・アフマドの思い出とともに』(2011年7月31日、京都大学) 『アジア的ホラー・コメディの可能性』 (2011年9月18日、JR博多シティ) 『親子・暴力・越境──混成アジア映画の可能性』(2011年12月2日、京都大学芝蘭会館) 『ヤスミン・アフマドにみる映画とマレーシア』(2011年12月11日、東京外国語大学) (3)ウェブサイト マレーシア映画文化研究会ウェブサイト(http://malaysia.movie.coocan.jp/) |
研究成果公表計画 今後の展開等: |
-平成22年度- 国内研究会を4回開催する。各研究会では、各共同研究員が研究成果を報告するとともに、自らの専門とする分野から紹介する関係者を招へい報告者とすることで、本研究プロジェクトを結節点としてマレーシア映画に関わる各分野のネットワーク形成を行う。マレーシア映画への影響が認められるようなイスラム圏、インド圏、中華圏など、各地域の作品や動向を研究する専門家を招へい報告者とするほか、マレーシアおよびシンガポールで映画制作や映画研究に関わる専門家を招へいして意見交換を行う。そのために1人を海外から招へいするほか、日本で開催される国際映画祭に参加するために来日した専門家を招へいして研究会や公開シンポジウムを開催する。次年度においてもブックレットを刊行するとともに、映画を資料として排除と包摂を論じたエッセイや論文を収めた報告書を作成し、これまでに発表した出版物ともあわせて、2年間の成果を商業出版として公開する可能性を探る。 -平成23年度- 共同研究員の論文をまとめて『地域研究』の特集企画として応募し、研究成果を公開する予定。 ・平成24年度京都大学地域研究統合情報センターの共同研究(「地域情報資源共有化」プロジェクト「CIAS所蔵資料の活用」)により「混成アジア映画」に着目した研究を継続して行うとともに、情報学の専門家とともにCIASの映画データベースの公開方法について検討する。 |