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「必要不可欠なアウトサイダー」からみる新たな地域像(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

「必要不可欠なアウトサイダー」からみる新たな地域像(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 北村由美(京都大学東南アジア研究所・助教)
共同研究員: 池田有日子(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)、王柳蘭(京都大学地域研究統合情報センター・JSPS研究員(RPD))、北美幸(北九州市立大学外国語学部国際関係学科・准教授)、工藤裕子(東京大学大学院人文社会系研究科・博士課程院生)、小池まりこ(東京外国語大学大学院・博士課程院生)、園田節子(神戸女子大学文学部・准教授)、津田浩司(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・助教)、奈倉京子(静岡県立大学国際関係学部国際言語文化学科・講師)、松村智雄(東京大学大学院総合文化研究科・博士課程院生)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  本研究の目的は、国家や社会によって「必要不可欠なアウトサイダー(Essential Outsiders)」として位置づけられてきた華人とユダヤ人の比較検討を通して、21世紀における新たな地域像を提起することである。
 リード(Anthony Reid)ら[1997]は、Essential Outsidersにおいて、ユダヤ人と華人を国民国家形成過程において経済的には必要であるが、国民としては完全に包摂しにくい/したくない存在、すなわち「必要不可欠なアウトサイダー」となっていく過程を明確にした。換言すると、「必要不可欠なアウトサイダー」を通してそれぞれの居住国である国民国家の特色を浮かび上がらせた。本研究では、リードらの先行研究を踏まえた上で、国民国家を超えてグローバル化がすすむと同時に中国とアメリカの二大国家が台頭するなかで、世界を行き来する存在となった華人とユダヤ人を捉え直す。つまり、本研究は、華人とユダヤ人が国民国家において「必要不可欠なアウトサイダー」であったからこそ、グローバル化の進む今日の世界で重要なプレーヤーとして活躍していることに注目し、リードらが国民国家の特色を明らかにした先にある、国を超えた新たな地域の輪郭を明らかにする。対象地域としては、華人とユダヤ人の移動先として最も重要な東南アジアとアメリカの2地域を設定している。
研究実施状況: -平成22年度-
 本年度は、京都・北九州・東京にて各1回、合計3回研究会を行った。第1回研究会で、EssentialOutsiders の再検討を行った上で、時代ごとにアメリカ・ユダヤと東南アジアの華人の動向を比較できるように研究会を構成した。それに加え、第2回研究会では印僑研究の第一人者であるA. Mani氏(立命館アジア太平洋大学)を招聘し、東南アジア・アメリカにおいてユダヤや華人につぐディアスポラ・グループである印僑史の概略と、印僑に対するホスト社会の反応について発表いただいた。
各回の詳細は以下のとおりである。
 
第1回 2010年6月20日(日)、於:京都大学
 「ユダヤ研究・シオニズム研究・パレスチナ問題研究という視点からみた新たな地域像とアプローチ」
  池田有日子(京都大学)
 「モデル(模範的)マイノリティとしてのユダヤ系アメリカ人―合衆国における反ユダヤ主義の特質と関連させて―」
  北美幸(北九州市立大学)
第2回 2010年9月11日(土)・9月12日(日)、於:北九州市立大学
 「ヘンリエッタ・ソルドのシオニズム観とアウトサイダーとしての役割」
  大岩安里(同志社大学大学院)
 「中華民国成立直後の議会における華僑の扱い」
  篠崎香織(北九州市立大学)
 ”Indians in Contemporary Southeast Asia”(公開)
  A. Mani(立命館アジア太平洋大学)
第3回 2010年12月(土)、於:東京外国語大学
 「アメリカユダヤ人とソヴィエト体制」
  高尾千津子(立教大学)
 「北米華僑資料の保存・編集・公開の背景としてのマイノリティ」
  園田節子(神戸女子大学)
-平成23年度-
最終年度にあたる本年度は、昨年同様、京都・北九州・東京にて若手の研究者による発表を中心とする3回の研究会を開催すると同時に、成果発表に向けた検討会を行った。また、本研究プロジェクトが所属する「包摂と排除から見る地域」の他のユニットと合同で、シンポジウムを開催し、共通の問題関心に対して、さまざまな時代や地域を対象とする事例を提示して検討する機会を得た。各回の詳細は以下の通りである。
第一回研究会
日時:2011年5月22日(日)
場所:同志社大学
プログラム:
1.
松村智雄(東京大学大学院)「インドネシア西カリマンタンの華人社会」
2.Deborah Dash Moore (ミシガン大学)“American Jews: Historical Perspectives”
*Organization of American Historians(OAH)とアメリカ学会(JAAS)共催による短期研究者招聘事業の中での講演のうちの1回として、公開形式で開催。
第二回研究会
日時:9月30日(金)
場所:北九州市立大学
プログラム:
1.泉川晋(広島大学大学院)「1930年代オランダ領東インドにおける米穀流通―華人精米業者の活動を焦点に―」
2.Nguyen Thi Hong Hao(京都大学大学院)「M. ブーバーにおける『再生』としてのシオニズム―ナショナリズムとディアスポラの間」
京都大学地域研究統合情報センター共同研究「包摂と排除からみた地域」セミナー
日時:2012年2月11日(土)13時30分~18時
場所:晴海グランドホテル
プログラム:
<第1セッション>
1.小森宏美(早稲田大学) 趣旨説明と「戦間期バルト三国の文化自治:ユダヤ人の包摂と排除」
2.池田有日子(京都大学)「エッセンシャル・アウトサイダーとしての華人・ユダヤ人にとってのホームランド、国家-その意義と関与の異同比較分析-」(仮)
コメント:篠崎香織(北九州市立大学)
<第2セッション>
1.押川文子(京都大学)「『教育権利法』の包摂と排除:最近のインド教育改革から」
2.南出和余(桃山学院大学)「バングラデシュの『複線的教育制度』に見られる包摂と排除―個にとっての「学歴」の意味づけ―」
コメント:鳥羽美鈴(関西大学)
第三回研究会
日時:2012年2月11日(日)
場所:東京外国語大学AA研302号室
プログラム:
1.村岡美奈(ブランダイス大学大学院) 「日露戦争とユダヤ人 ー 人種、政治、トランスナショナリズム」
2.小池まりこ(東京外語大学大学院)「インドネシア・バリの地域社会における包摂と排除:葬送儀礼を事例として」
3.成果発表に向けた検討会
研究成果の概要: -平成22年度-
 今年度の成果は、20世紀初頭におけるアメリカ・ユダヤと東南アジア華人の比較・検討する上での基礎知識を共有し、いくつかの課題を明らかにできた点である。移民もしくはディアスポラを研究する際には、対象とするグループを①ホームランドとの関係、②ホスト社会・国家との関係、③戦争や経済危機などよりグローバルな事象の影響、の3点から検討することが有効である。前述のReid[1997]が主に②の点から議論を展開していたのに対して、本研究では特に①のホームランドとの関係についての議論が活発に行われた。具体的には、中国という国民国家がある華人と、イスラエルを建国したものの、民族国家としての矛盾をかかえているユダヤ人の国家観・民族観との差異をどう検討していけばよいのかが課題とて認識された。
 また、③の点に関連して、一か所での出来事が、実はグローバルな影響力を持つという観点から、国境にしばられない地域研究を検証する例として位置づけられるのではないかという議論がなされた。今年度は論点のさらなる整理を行いたい。
-平成23年度-
本研究プロジェクトでは、2年間をとおして、20世紀初頭から21世紀初頭にかけてのアメリカ系ユダヤ人と東南アジア華人の思想と行動に関するさまざまな事例を比較検討してきた。前述の通り、本研究の発端となっているリード他[1997]によって「必要不可欠なアウトサイダー」を通してそれぞれの居住国である国民国家の特色、すなわち制度面における両者のアウトサイダー化のプロセスや、社会構造の変化が明らかになった。本研究では、リードらが明らかにした構造的側面に加え、アウトサイダー化された当事者による経験・主張を歴史的視野を踏まえつつ微視的に分析し、また彼らとHomelandとの関係、あるいはマイノリティであってもアウトサイダー化されない存在について議論を深めた。その結果、国民国家とアウトサイダー化されたユダヤ人と華人という平面的な国家・地域と人との関係性だけではなく、中国という国民国家がある華人と、イスラエルを建国したものの、民族国家としての矛盾をかかえているユダヤ人の地域認識の差が立体的に把握できた。同様に、同じ国内のユダヤ人あるいは華人であっても、時代背景や地理的条件、Homelandとの(外交を含めた)関係性によって、当事者の抱く地域認識や当該社会における位置づけに著しく違いがあることが明確になった。
公表実績: -平成22年度-
<学会発表>
2010年6月6日 東南アジア学会、於:愛知大学豊橋校舎
パネル「国民であること・華人であること―20 世紀東南アジアにおける秩序構築とプラナカン性」にてメンバー2 名が発表
 王柳蘭「越境と共生戦略―北タイ雲南系ムスリムの事例から」
 北村 由美「ポスト・スハルト期インドネシアにおける華人の動向から」
<公開シンポジウム>
2010年9月12日(日)、於:北九州市立大学
“Indians in Contemporary Southeast Asia”
 A. Mani(立命館アジア太平洋大学)
<論文>
園田節子「世紀転換期サンフランシスコにおける華僑アイデンティティ創生と『華』の表出」、中国研究所『中国研究月報』、Vol.65, No.2, 2011年2月号、2011年、pp.4-16.
-平成23年度-
第1回研究会のDeborah Dash Moore教授 (ミシガン大学)による講演は、Organization of American Historians(OAH)とアメリカ学会(JAAS)共催による短期研究者招聘事業の中での講演のうちの1回として、公開形式で行った。
研究成果公表計画
今後の展開等:
 -平成22年度-
次年度は、本年度に引き続き国内研究会を3回行う予定である。その上で、本研究会を国際学会にてパネル発表し、フィードバックを得た上で、次年度以降に成果を出版する準備を行う予定である。また、本研究のアンブレラ・プロジェクトである「複合ユニット 包摂と排除から見る地域」(代表:小森 宏美)が企画中であるユニット合同シンポジウムにて本研究会の成果を発表し、複合ユニットの議論の深化に寄与したい。
-平成23年度-
今後の予定としては、まず2012年4月20に本研究会のユダヤ研究関係のメンバーらによりOrganization of American Historians年次集会にてパネルセッションが組まれる。また、研究会での成果をメンバーの編著本として上梓すべく執筆・編集をすすめていく予定である。