代表: | 柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授) |
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共同研究員: | 梶本武志(和歌山県工業技術センター・主査研究員)、神崎護(京都大学大学院農学研究科・准教授)、竹田晋也(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科・准教授)、畑俊充(京都大学生存圏研究所・講師)、水野広祐(京都大学東南アジア研究所・教授) |
期間: | 平成22年4月~平成25年3月(3年間) |
目的: | ある特定の時空間を切り取り、自然生態・社会文化・政治経済といったさまざまな分野の関係性を総合的に考察する地域研究において、地域の切り取り方はテーマ設定にかかわる重要な課題である。自然条件をベースにして、歴史的な社会経済の変化を取り込んだ地域区分には世界単位論が知られるが、自然が人為的な影響のもとに形成されたものであるという理解が地域区分に十分反映されているわけではなかった。現在、自然と人が相互に影響しあいながら共に変化してきたことが多くの研究分野で明らかにされつつあるが、大きな傾向として、自然科学系の分野では人間の諸活動が画一的に描かれ、人文社会科学系の分野では自然に対する理解が旧態依然としている。本複合共同研究の目的は、両者を接合するための場を提供することにある。それにより、自然と人の相互作用に関する研究分野の文理融合を進め、地域理解を深化させることが目的である。 |
研究実施状況: | -平成22年度- 2010年度の研究活動は、特に自然と人との相互作用に焦点あてた二つの個別共同研究を中心に進めてきた。いずれの共同研究でも、日本での研究会活動とともに、各種プロジェクトと組み合わせた現地調査を精力的に行っている。複合共同研究としては次の研究会を開催した。 ・「アジアの稲作研究からアジア地域研究へ―田中耕司先生退職記念シンポジウム」(4月17日) ・「スラウェシ研究とCinta Laut Foundation 構想」遅沢克也(愛媛大学) ・“The Interface between Social Science and Agricultural Science” Terry Rambo(コンケン大学) ・「比較農法史研究に『個体・群落』の農法の視点は有効か」徳永光俊(大阪経済大学) ・「中国の環境問題と生存基盤‐公害・環境政策・生態移民‐」(12月3日) ・「チベット東縁部・黄河源流域の生態移民と民俗文化の行方」別所裕介(広島大学・平和構築連携融合事業(HiPeC) 研究員) ・「内モンゴル西部・黒河流域の生態移民と牧畜文化の行方」児玉香菜子(千葉大学助教) ・「生態・環境災難の社会的分配と社会応対:中国山西省を中心に」張玉林(南京大学教授、中京大学客員教授) ・「中国辺境域とアジア海域での生態資源利用の変遷に関わる中国人の役割」山田勇(京都大学名誉教授) -平成23年度- 2011年度の研究活動は、二つの個別共同研究「まつたけ (Tricholoma spp.)の生産と流通・食文化をめぐる相関型地域研究―アジア・北米から中東・地中海地域までを視野に入れて―」および「東南アジアにおける油ヤシ農園生成・拡大の政治経済学」を中心に進めてきた。いずれの共同研究でも、日本での研究会活動とともに、各種プロジェクトと組み合わせた現地調査を精力的に行っている。具体的な研究会や国際集会の開催は、個別共同研究の成果報告書に記載されている。このほかに、G-COE『生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点』イニシアティブ2班「自然と人の共生研究会」と共同し、6回の研究会を開催した。 -平成24年度- 複合共同研究ユニットでは、個別共同研究ユニットの研究会だけでなく、関連する課題を対象とした研究会・ワークショップと連携し、研究成果の共有と議論の深化を図った。具体的には、「東南アジアの自然と農業研究会」と連携し、5回の研究会を開催した。そのうち1回は、個別共同研究ユニット「アジアの大河流域における地域形成が流域ガバナンスに及ぼす影響」(代表:山口哲由)と共催し、研究成果の共有を図った。また、科研「地域社会はいかにして国際的な環境問題の解決に貢献できるのか」(代表:Wil de Jong)と連携した研究会では、国際社会の環境レジームとローカルな自然資源利用について検討した。科研「森林の包括的利用システムの地域間比較研究」(代表:柳澤雅之)と連携したワークショップでは、インドネシア・中カリマンタンにおける伐採会社が、林業経営と森林の維持管理がローカルな人たちの森林利用に及ぼす影響と林業経営および森林環境の持続的利用について検討した。 |
研究成果の概要: |
-平成22年度- グローバル化が進展した現代に限らず過去においても、自然と人の相互作用は、局地的な自然を地域の人びとが利用するという2者間の関係だけで決定されてきたわけではない。特に利用する人間側を見てみると、自然を利用した生産と人間による消費がある一定の狭い範囲で自給的に完結するケースはむしろ少なく、多くの場合、地域の人間は外部社会と密接に関係し、その関係性の中で、地域の自然と人の相互作用が決定されることがほとんどであるといってよい。マツタケをめぐる個別共同研究では、特にグローバル化が進展する中でアメリカやカナダに形成された新しいマツタケの生産地が、世界の生産-流通-消費の関係の中に組み込まれるプロセスを明らかにしようとしている。アブラヤシに関する個別共同研究では、インドネシアとマレーシアという大生産国における生産‐流通‐消費の関係に加えて、地域社会における労働や社会関係の変化など、新しい農産物がもたらす地域社会の変容を取り上げ、アブラヤシが創出する新しい地域の生成に関する検討を進めた。また、ベトナムのような周辺諸国でのアブラヤシ栽培の動向を検討することで、自然環境が比較的類似し、流通のための地政学的な特徴も似ているような近隣諸国でも、インドネシアやマレーシアとは異なる多様な地域形成の論理が存在することを改めて確認した。さらに、G-COE関連の研究会を通じて、より長期の視点を持つことの必要性が議論された。 -平成23年度- グローバル化が進展した現代に限らず過去においても、自然と人の相互作用は、局地的な自然を地域の人びとが利用するという2者間の関係だけで決定されてきたわけではない。特に利用する人間側を見てみると、自然を利用した生産と人間による消費がある一定の狭い範囲で自給的に完結するケースはむしろ少なく、多くの場合、地域の人間は外部社会と密接に関係し、その関係性の中で、地域の自然と人の相互作用が決定されることがほとんどであるといってよい。マツタケをめぐる個別共同研究では、特にグローバル化が進展する中でアメリカやカナダに形成された新しいマツタケの生産地が、世界の生産-流通-消費の関係の中に組み込まれるプロセスを明らかにしようとしている。アブラヤシに関する個別共同研究では、インドネシアとマレーシアという大生産国における生産‐流通‐消費の関係に加えて、地域社会における労働や社会関係の変化など、新しい農産物がもたらす地域社会の変容を取り上げ、アブラヤシが創出する新しい地域の生成に関する検討を進めた。また、ベトナムのような周辺諸国でのアブラヤシ栽培の動向を検討することで、自然環境が比較的類似し、流通のための地政学的な特徴も似ているような近隣諸国でも、インドネシアやマレーシアとは異なる多様な地域形成の論理が存在することを改めて確認した。さらに、G-COE関連の研究会を通じて、より長期の視点を持つことの必要性が議論された。 本複合共同研究の中心的な課題に特にひきつけて研究成果を概観すると次のようである。「田中耕司先生退職記念シンポジウム」では、まず日本の農業技術史研究、東南アジア諸地域における農業体系研究、アジア稲作文化論、スラウェシ地域研究、フロンティア社会論、インドネシアや東南アジア大陸山地部における生態資源の利用と管理に関する研究を概観した。技術や地域社会の形成を通じて現れる自然と人の相互作用は、自然に対する人間の単なる適応の結果ではなく、人間側が現場の中で方向づけを進める過程で決められていくことが明確になった。 また、「中国の環境問題と生存基盤‐公害・環境政策・生態移民‐」では、経済合理性を優先させる政策のもと、自然利用がきわめて人為的な論理で進められていること、そのことが逆に、地域社会に多大な負担を強いていること、にもかかわらずその解決策は依然として経済合理性のもとに進められており、そのことが問題をさらに拡大していることが明らかとなった。 -平成24年度- 複合共同研究が実施されていた3年間のほとんどすべての個別共同研究ユニットに共通していたのは、自然資源利用に新しい資源管理システムが求められていることが明確になったことであった。インドネシア・中カリマンタンの事例でいえば、コンセッションの中で、当然、伐採会社とコンセッション域内に居住する地元住民とがともに森林を利用しているものの、グローバル化の進展とともに、それ以外に森林にかかわるステークホルダーはとして、環境保護に関わるNGOや地方政府、材の消費者、森林の生態系サービスを享受する周辺住民、内外の研究者等、さまざまな人たちが存在するようになった。こうしたマルチステークホルダーの状況の中で、森林の維持管理と利用とを持続的に決定する新しい意思決定メカニズムが必要とされるようになった。このことは、個別共同研究ユニットで個別に議論している、マツタケやアブラヤシ、森林、河川についても同様に当てはまることがわかった。 |
公表実績: | -平成22年度- いずれの研究会も公開シンポジウムとして開催された。 -平成23年度- 柳澤雅之・河野泰之・甲山治・神崎護(編). 2012.『地球圏・生命圏の潜在力―熱帯地域社会の生存基盤―』京都大学学術出版会 柳澤雅之・Hoang Thi Minh Nguyet. 2012. 「ベトナムでアブラヤシ栽培が展開しないのはなぜか? -ゴムとの比較から-」京都大学地域研究統合情報センター全国共同利用研究『東南アジアにおける油ヤシ農園生成・拡大の政治経済学』(代表:岡本正明・京都大学東南アジア研究所)、総合地球環境学研究所. 1月28日 -平成24年度- 4月20日 第155回東南アジアの自然と農業研究会「東ティモールにおける慣習的森林利用権の誕生:国家形成、地方分権、及び自然資源管理」/東南アジアの自然と農業研究会/京都大学稲盛財団記念館中会議室 6月22日 第156回東南アジアの自然と農業研究会「ミャンマー中央乾燥平原の農業生態―フナキかハラダか」/東南アジアの自然と農業研究会/京都大学稲盛財団記念館中会議室 7月30日 Changes in Livelihood and Forest Use by the Dayak in SBK Concession Area, Central Kalimantan, Indonesia/科研費「東南アジアの包括的森林利用」研究会/ガジャマダ大学(インドネシア) 10月19日 第157回東南アジアの自然と農業研究会「サンゴ島の自然条件下におけるミズズイキ栽培―中部太平洋キリバス南部におけるイモ・人間・土地―」/東南アジアの自然と農業研究会/京都大学総合研究2号館447号室 12月17日~18日 International Workshop on Strengthening Scientific and Cultural Collaboration Between Kyoto University and UGM/ガジャマダ大学、京都大学農学研究科、科学技術戦略推進費事業 “熱帯多雨林における集約的森林管理と森林資源の高度利用による持続的利用パラダイムの創出”/ガジャマダ大学(インドネシア) 12月21日 第158回東南アジアの自然と農業研究会「カンボジア森林政治の現地点と展開: 重層的な制度/アクター分析による熱帯林動態要因の解明に向けて」/東南アジアの自然と農業研究会/京都大学総合研究2号館447号室 2月22日 第159回東南アジアの自然と農業研究会「サンゴ島の自然条件下におけるミズズイキ栽培―中部太平洋キリバス南部におけるイモ・人間・土地―」/東南アジアの自然と農業研究会/京都大学稲盛財団記念館中会議室 3月5日~6日 International Workshop on Forestry and Local People:Toward A Joint Use and Management of Tropical Rain Forest, Indonesia/科学技術戦略推進費事業“熱帯多雨林における集約的森林管理と森林資源の高度利用による持続的利用パラダイムの創出”科研費「東南アジアの包括的森林利用」(代表:柳澤雅之)/タンジュンプラ大学(インドネシア) |
研究成果公表計画 今後の展開等: |
-平成22年度- 個別共同研究だけでなく、関連する研究会と共同した共同研究会運営を実施する。本複合共同研究会が他の研究会と異なる点は、自然科学系の研究における「自然と人の相互作用」に関する研究成果を取り上げる点と、地域研究分野の「自然と人の相互作用」に関する研究では研究蓄積が相対的に少ない分野を取り上げる点にある。2011年度は、植生研究や気象研究との共同し、地域的には第二次世界大戦以降の日本の農山村研究を対象とした研究会を計画している。 -平成23年度- 4つの個別共同研究ユニットと共同し、自然と人の相互作用からみた歴史的地域の生成を検討する。モノを中心とした歴史的地域の形成(マツタケ、アブラヤシ)を検討する共同研究ユニット(「相関型地域研究による総合的マツタケ(Tricholoma spp.)学の創成」「アブラヤシ農園拡大の政治経済学:東南アジアを超えて」)と共同で他のモノをめぐる研究会を開催し、アフリカの人為植生を対象とした共同研究ユニット(「アフリカにおける人為植生の成立要因と歴史的変遷に関する地域間比較研究」)とは、他地域での人為植生に関する研究会を共同で開催する。流域の歴史的地域形成を検討する共同研究ユニット(「アジアの大河流域における地域形成が流域ガバナンスに及ぼす影響」)に対しては、流域内の多様な形成原理を検討する研究会を共同で開催すると同時に、他の河川流域での事例を検討する研究会を開催する。 -平成24年度- 特にインドネシアでの研究成果を中心に、本として刊行する予定。 |