代表: | 錦田愛子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・助教) |
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共同研究員: | 池田有日子(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)、岩浅紀久(ITエンジニアリング研究所・研究員(研究所長))、臼杵悠(一橋大学大学院経済学研究科・博士後期課程)、大岩根安里(同志社大学大学院神学研究科・博士課程院生)、金城美幸(立命館大学衣笠総合研究機構・PD)、佐藤寛和(岡山大学社会文化科学研究科・博士課程院生)、塩塚祐太(JVC(日本国際ボランティアセンター)・ボランティア)、鈴木啓之(東京大学大学院総合文化研究科・博士課程/日本学術振興会特別研究員(DC1))、高岩伸任(一橋大学大学院経済学研究科・博士課程院生)、武田祥英(千葉大学大学院人文社会科学研究科・博士課程院生)、田浪亜央江(ミーダーン・運営委員)、鶴見太郎(立教大学文学部・日本学術振興会 特別研究員(PD))、土井敏邦(フリージャーナリスト)、西村木綿(京都大学大学院人間・環境学研究科・日本学術振興会 特別研究員(DC))、平岡光太郎(同志社大学大学院神学研究科・博士後期課程院生)、細田和江(中央大学政策文化総合研究所・準研究員)、役重善洋(京都大学大学院人間・環境学研究科・博士課程院生)、吉年誠(一橋大学社会学研究科・助手)、今野泰三(大阪市立大学文学研究科・日本学術振興会特別研究員DC ) |
期間: | 平成23年4月~平成25年3月(2年間) |
目的: | パレスチナ/イスラエル研究の分野ではこれまで、建国をめぐる歴史的経緯や、思想的背景、政治的動向など様々な側面が各学問のディシプリンにより考察されてきた。また近年では政府間援助や国際NGOなどの活動が、現地における予備調査に基づき実施され、学術的にも価値の高い成果報告書が出されている。本研究はこの点に注目し、当該地域をめぐる分野横断的、業種横断的な地域研究の方法論を打ち立てることを目的に据える。若手の地域研究者を中心に、諸外国では事実上相互に距離がある研究領域や、NGO関係者やジャーナリストなど多様な立場で地域にかかわる人々の間で、それぞれの方法論の有効性と成果を提示し合う中で、地域に関わる人々のネットワークの形成による地域研究の方法論的発展について検討していく。日本においては、当該地域や欧米諸国では事実上困難な、アラブ・イスラーム研究とユダヤ研究の積極的な連帯が可能である。日本における当該地域研究のこうした特質は、世界に貢献しうる新たな知識体系を提示する可能性を持っており、また、こうした知を総合・整理することで、研究と支援活動の両分野に高い費用対効果を生むと考えられる。 |
研究実施状況: | -平成23年度- パレスチナ研究者とユダヤ・イスラエル研究者が一堂に会して継続的に研究を行っていくという日本においてほぼ初めての試みを円滑に進めるために、本年度は個別の研究報告に重点を置き、それにより学術レベルでの親睦を深めながら、関心の所在や研究動向を探っていった。そのために、計5回研究会を開催した。すべてイスラーム地域研究東京大学拠点(以下TIAS)との共催で行ったため、毎回人的にも充実していた。 それと並行して、TIASと共催で次の2つを実施した。第1に、多くの研究蓄積がある一方で関心が分散しているパレスチナ/イスラエル地域研究の最新の優良な成果を効率的に吸収していくために、研究文献を精選して解題を付したデータベースを作成することを決定し、それをウェブ上で公開するための準備を進めた。第2に、本地域における紛争の特徴を炙り出すべく、類似した問題構造を持つ旧ユーゴやチェチェンなどの研究者を集め、JCAS次世代ワークショップ「境界研究」の枠でワークショップを開催し、地域という「タコツボ」に籠る傾向が否定できなかった従来の本地域研究に新たな風を吹き込む試みを行った。これにより、次年度に予定している本地域研究における研究者連携に関するシンポジウムでの議題を具体化するための素地が整った。 -平成24年度- 一年目に構築された研究者間のネットワークを活用し、本年度はアラブ・パレスチナ研究者とユダヤ・イスラエル研究者の双方が参加する形で、異なる形式の研究会を計4回実施した。第一回目は、イスラエル研究の先駆者である故大岩川和正の業績をめぐる研究者の世代間対話と方法論的対話を目的とした、公開シンポジウムである。また開催のための準備研究会を4月22日に開催した。第二回目は、地域認識に大きくかかわる論点・概念・ディシプリン・立場等の基礎事項について論点を提示し、思考様式の多様性を検討するための、論点発掘・議論専用セッションである。第三回目は、異なる業種による同じ事象の分析手法と結果を比較するための、異業種共同研究会である。そして最後に、第四回研究会では、過去二年間の研究の成果を総合評価し、今後に発展させるための総括討論を行なった。またこれらの研究会を開催する期間中、同時進行で、昨年システム設計を完了させた文献データベースへのデータ蓄積を研究会メンバー全員で進め、2013年4月に向けた公開準備に取り組んだ。 |
研究成果の概要: | -平成23年度- 今年度はこれまで相互に密接に関連しているにもかかわらず、文明論的な次元も絡む紛争地域ゆえに研究者間で生じていた距離を埋めていくことを重視した。その結果、相互に関心の所在が明らかとなった。より正確にいえば、具体的な共同研究を行えるような共通の関心がほとんどないという関心の分散状況が確認された。これは、学問全体の傾向でもあるが、本地域研究においても、数十年前であれば、主要な対立軸は明確にあり、研究者は望むなら比較的容易に「群れ」をなすことができた。それに対して、今日では必ず言及されるビックネームがいるわけでも、かつてのように社会経済史や法制度史が後ろに控えているわけでもない。 それにもかかわらず、今日でも本地域研究の研究会には人が集まる。しかしそれは必ずしもかつてのように広い意味で同じ課題に取り組んでいる「同志」であるからではない。むしろ、どこかで自らの関心との?がりがあるかもしれないとの考えによる。 本年度の研究会を通して生まれたのは、この種のネットワーク的関心を基軸にして共同研究を組み立てていくという発想の転換である。そのうえで、次年度、世代の問題や、存在拘束性の問題――例えば、欧米ではなく日本で本地域を研究するとはいかなることであるのかということ――について議論を深めていくことが確認された。 また、そのために各下位分野の研究状況を効率的に把握するための「副教材」として研究文献解題のデータベースの準備を進めた。まずは検索時に力を発揮するカテゴリーの設定をウェブ上で共同で行い、また、データ自体の作成を進めた。 -平成24年度- パレスチナ/イスラエル研究では、異なる方法論や業種の人々が、相互に関連する問題関心について違う角度から研究の成果を出している。本年度は、そうした違いを生み出すと考えられる要素を毎回措定し、要素に応じた構成で研究会を組み立てた。初回研究会では「世代」をとりあげ、地理学者大岩川和正と、近似のテーマを扱う若手の本研究会メンバーの間で世代間対話を試みた。研究会参加者全員で大岩川の業績を事前に読み返し、その具体的な内容に沿って、大岩川のアプローチがもつ意義や先見性、成果が示唆することなどを議論した。またシンポジウムでは若手研究者が各自進める研究について報告し、大岩川の業績を比較してどう位置づけられるか、世代を越えて学べる点など考察を加えた。二回目の研究会では「問題性の自覚」をとりあげ、4名の報告者が各々の研究に関連して日頃留意している論点について述べ、全体で議論した。挙げられた論点としては、昨年も指摘された研究者自身の存在拘束性(使用概念や政治的立場、日本人であることなどによる立場規定など)があり、現在も進行する紛争地の研究としてそれらがもつ意味が議論された。三回目の研究会では「業種」をとりあげ、同じインティファーダ(イスラエル占領地における抵抗運動)をとりあげる研究者二名とジャーナリストの間で議論の場を設定した。歴史と政治の側面から分析を加える研究に対して、パレスチナ社会に20年以上関わるジャーナリストの視点からは、現代研究をする意義や、対象にかかわる姿勢が問われ、現地調査の重要さが指摘された。最終回の研究会では、過去二年間の研究会の成果が議論され、情報資源の共有の可能性や、異なる方法論の間で共有され得る価値・方向性、使用概念の意味の変化などについて明らかにされた。また、通常はお互いに触れることが少ない問題関心・問題設定のレベルにあえて照準を合わせて、その部分で議論し合う研究会を定期的に設けることが、複数のディシプリンが交錯する地域研究における共同研究を有効に進めるうえで不可欠であることが確認された。 |
公表実績: | -平成23年度- ・JCAS次世代ワークショップと共催により、「折り重なる境界、揺れ動く境界」(1月22日、早稲田大学早稲田キャンパス)を開催。 ・その成果公刊を現在準備中(北大GCOE刊行物『境界研究』次号で特集を予定)。 ・次年度前半までに上記データベースの一般公開予定。 -平成24年度- ・イスラーム地域研究東京大学拠点(TIAS)主催、CIAS研究会および明治大学文学部地理学専攻の共催で、公開シンポジウム「土地とイデオロギー ― 大岩川和正の現代イスラエル研究を起点として」(2012年6月9日、明治大学駿河台キャンパス)を開催した。 ・大岩川シンポジウムの成果をTIAS刊行物として出版するため、現在準備中である。 ・第三回研究会で報告された錦田愛子の報告内容は、酒井啓子編『中東政治学』(有斐閣、2012年9月)で刊行済みである。また鈴木啓之の報告内容は、『中東研究』第514号(2012年6月)で刊行済みである。 ・第三回研究会でコメントを頂いたジャーナリスト土井敏邦氏の作品は、映画『ガザに生きる』5部作として作成が進んでおり、近日中に公開予定である(そのうち第二部「2つのインティファーダ」が研究会に関連しており、当日会場で一部上映された)。 ・昨年度の実施されたCIASおよびJCAS共催の次世代ワークショップ「折り重なる境界、揺れ動く境界」(1月22日、早稲田大学早稲田キャンパス)の成果として、鈴木啓之の論文「占領と抵抗の相克:被占領地のパレスチナ人市長を事例に」が刊行された(『境界研究』第3号、2012年11月)。 ・2013年4月、文献データベースを一般公開予定である。 |
研究成果公表計画今後の展開等: | -平成23年度- 次年度は「通史を書かない研究会――問題発見型の共同研究に向けて」という別名を掲げることにより、具体的な関心を共有しないなかでいかにして共同研究を行っていくかをさらに議論していく。その際にまず着目していくのは、6.で記したとおり、世代の問題や研究者の存在拘束性の問題である。本地域研究においては、紛争地研究として、今日でも対立軸が明確な部分は残っているが、その下位に別の対立軸が、また、主要な対立軸には解消されない新たな局面が出てきている。それらは「通史」としてまとめることができない性質を持つ。従来であればこれは共同研究の障害とされるところであるが、次年度はネットワークという観点から、こうした集約不可能性に適切に対応した共同研究のあり方を探っていく。まずは、日本のイスラエル研究の第一世代である地理学者の故大岩川和正氏の業績を氏と同世代の研究者と若い世代が一堂に会するシンポジウムの開催が6月に予定されており、それを踏まえた議論専用の研究会も併せて開催することが決まっている。その後は、個別発表を行う会も設けながら、年度の終わりにさらにワークショップの開催を予定している。 -平成24年度- 本研究会で構築された研究者間のネットワークをもとに執筆陣をそろえ、複数の成果出版を計画中である。そのひとつとして、2013年に20周年を迎えるオスロ合意について、その背景や経緯を再考する論集の刊行を、年度内を目標に進めていく予定である。また今後もパレスチナ研究者とイスラエル研究者の研究交流の場を、イスラーム地域研究東京大学拠点主催の研究会という形で継続して構築・発展させていく。研究上の方法論や共通の課題についても、定期的に研究会の場で議論の機会を設けていきたい。さらに、本研究会で基盤を構築した文献データベースを、入力データを増やすことにより一層充実させていく。 |