1. ホーム
  2. 研究活動
  3. 過去の研究プロジェクト
  4. 帝政ロシアの植民地的「知」の中の中央アジア:「トルキスタン集成」データベースの検索機能の高度化を通じて(h24)

帝政ロシアの植民地的「知」の中の中央アジア:「トルキスタン集成」データベースの検索機能の高度化を通じて(h24)

過去の研究プロジェクト

帝政ロシアの植民地的「知」の中の中央アジア:「トルキスタン集成」データベースの検索機能の高度化を通じて(h24)

個別共同研究ユニット
代表: 帯谷知可(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 秋山徹(東洋文庫・日本学術振興会特別研究員)、河原弥生(東京大学大学院人文社会系研究科次世代人文学開発センター・研究員)、柴山守(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)、兎内勇津流(北海道大学スラブ研究センター・准教授)、中村朋美(京都大学大学院人間環境学研究科・博士課程3年)、野田仁(早稲田大学イスラーム地域研究機構・次席研究員(研究院講師))、BakhtiyarBabadjanov(ウズベキスタン共和国科学アカデミー東洋学研究所・上級研究員)、原正一郎(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、藤本透子(国立民族学博物館・機関研究員)、和崎聖日(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)
期間: 平成24年4月~平成25年3月(1年間)
目的:  2010-2011年度京都大学地域研究統合情報センター共同研究個別共同研究ユニット「『トルキスタン集成』のデータベース化とその現代的活用の諸相」(研究代表者:帯谷知可)において進められてきた、「トルキスタン集成」(オリジナル594巻、ウズベキスタンのナヴァーイー記念国立図書館所蔵)(以下、TS)の書誌情報検索データベース(2009年暫定版公開)の改良版(PC上での書誌情報検索のみならず資料本体の閲覧まで可能なデータベースへ)作成という目標がおおむね達成できる見込みが立ったことから、そのさらなる展開として本研究を企画する。TSデータベースに地域情報学の最新の成果を組み込んで検索機能を高度化させ、また中央アジア地域研究者らによるキーワードおよび関連情報の追加によって、帝政ロシアによって構築された中央アジアに関するこの植民地的な「知」の情報群に分け入るための「導き」や「ヒント」、多様な資料間の「連関」などを提示させ、書誌情報検索と資料現物の閲覧に留まらず、利用者がこの植民地的な「知」の世界を縦横に探索できるデータベースへと進化させることをめざす。
研究実施状況:  本研究は単年度での組織であったが、(1)データベースのリニューアルの方向性について主としてメンバー中のCIASスタッフを中心に、地域情報学の成果をどのようにTSデータベースに取り込むかについての研究打ち合わせ(随時)、その結果を受けて語彙分析ならびにオントロジー的手法導入の実験的試み、(2)研究会の開催(2回)、(3)CIASの地域情報学プロジェクトからの支援も得て、TSデータベースのメタデータの基となる書誌情報の修正・追加入力の恒常的作業、(4)海外メンバーのB.ババジャノフ氏との連携によるイスラーム関連キーワード群の作成、の4つの活動を柱として進められた。
研究会の概要は以下の通りである。(いずれも2日間開催、うち1日は報告と討論、残る1日はメンバーによるTSの閲覧)
第1回研究会(2012年10月12-13日)
和崎聖日「TSと定住ウズベク社会=文化の人類学的研究:近代化装置としての「家族」をめぐる記述の系譜的理解に向けて」
柴山守、原正一郎「『集成』書誌情報語彙分析の可能性」
第2回研究会(2013年3月14-15日)
帯谷知可「進捗状況報告ほか」
帯谷知可「TSのインデクス・カテゴリーをめぐって」
柴山守「TSデータベースの改良について」

研究成果の概要: (1)データベースのリニューアルの方向性:「導き」や「連関を仲介するものとしてTS冊子体インデクス(索引)の分類カテゴリーに着目し、オントロジーの手法を取り入れることを前提として、実験的にTS書誌タイトルの語彙分析を行った上で、インデクス分類カテゴリーと書誌、さらに書誌タイトル中に出現する単語とをツリー状に結び付けて表現する仕組みを検討し、TSの一部を対象としてシステムを作成した。また、時空間情報を埋め込むことについても検討し、地名辞書のフォーマット作成などその準備を整えた。イスラーム関連キーワード群(メジョフ編の第1巻~第416巻までにつき作成済み)や、現代の研究者が個々の書誌に対して新たに提供するキーワードをどのようにデータベースに組み込むかについては今後の検討課題である。
(2)ディスカッション・ペーパーの刊行:以下の7.に示すように、CIASディスカッション
・ペーパーの1シリーズとして、「『トルキスタン集成』が拓く世界」を立ち上げ、その第1号、第2号を刊行した。第1号は、データベース化の課題と展望ならびにTSの地域研究資料としての可能性をテーマとしたものである。第2号は、英語とロシア語による発信であり、ロシア帝国論の分野での貢献を意識したものとなった。
(3)TSの書誌情報整備:メタデータの基となる書誌情報の修正・追加入力作業については、巻順・ページ順に書誌情報と資料画像を照合する作業を継続し、2011年度末に書誌総件数9,195件だったものが、2012年度末には10,623件に達した。
(4)研究展開:データベースのリニューアルの方向性がおおよそ定まってきたことに関連して、技術的な面も含めた書誌情報データベースの新展開という側面と、データベース化によって明らかとなるTSの全体像の把握や性格づけに対するロシア帝国論の立場からのアプローチという側面がより強く打ち出されてきた。後者においては、TSの構成に当時の首都における「帝国」表象の方法の反映が見られること、同時に歴代トルキスタン総督の影響からTSが決して自由ではなかったことなどが確認された。
公表実績: (1)ディスカッション・ペーパーの刊行
・帯谷知可編『「トルキスタン集成」が拓く世界Ⅰ―データベース化の課題と展望、その資料としての可能性』(CIAS Discussion Paper No. 34)、2013年3月刊行、47頁。
・帯谷知可編『「トルキスタン集成」が拓く世界Ⅱ―帝政ロシアの植民地的『知』の中の中央アジア』(CIAS Discussion Paper No. 35)、2013年3月刊行、72頁。
(2)論文等
・帯谷知可「『トルキスタン集成』のデータベース化―その課題と展望」帯谷知可編『「トルキスタン集成」が拓く世界Ⅰ』(CIAS Discussion Paper No. 34)、2013、5-12頁。
・兎内勇津流「データベースによる『トルキスタン集成』の構成分析」帯谷知可編『「トルキスタン集成」が拓く世界Ⅰ』(CIAS Discussion Paper No. 34)、2013、13-18頁。
・中村朋美「『トルキスタン集成』に見るロシア領トルキスタンのワクフ研究」帯谷知可編『「トルキスタン集成」が拓く世界Ⅰ』(CIAS Discussion Paper No. 34)、2013、43-47頁。
・藤本透子「カザフ社会の近代化過程における宗教的儀礼へのまなざし―歴史資料への人類学からのアプローチ」帯谷知可編『「トルキスタン集成」が拓く世界Ⅰ』(CIAS Discussion Paper No. 34)、2013、19-34頁。
・Бабаджанов, Б. М., “Российский генерал-конквистадор в русском Туркестане: взлеты и падения М. Г. Черняева,” (B.ババジャノフ、「ロシア領トルキスタンにおけるロシア将軍=征服者―M. G. チェルニャエフの台頭と凋落」)帯谷知可編『「トルキスタン集成」が拓く世界Ⅱ』(CIAS Discussion Paper No. 35)、2013、pp. 17-43.
・OBIYA, Chika, “Turkestanskii Sbornik as a Compilation of Colonial Knowledge: Focus on its Indexes,” 帯谷知可編『「トルキスタン集成」が拓く世界Ⅱ』(CIAS Discussion Paper No. 35)、2013、pp. 6-15。
(3)国際シンポジウム報告
・OBIYA, Chika, “Imperial Russia’s Eyes on Central Asia: Turkestanskii Sbornik as a Set of Colonial Khowledge,” (Toyo Bunko International Symposium: Central Asia Studies and Inter-Asia Research Networks: Integrated Study of Dynamism in the Central Asian Regional Sphere), Toyo Bunko, 2013. 03.03.
研究成果公表計画今後の展開等: (1)データベースのリニューアルとその意義:書誌情報を基盤とするデータベースの事例として、あるいは何らかの意図のもとに形成されたコレクションを地域研究者が整理しながら構築されるデータベースの事例として、トピックマップやオントロジーなど最新の成果を取り入れた地域情報学的データベースを展開する方向性の一般化あるいは類型化のために貢献できるのではないかとの着想を得た。平成25年度CIAS共同研究個別ユニット「書誌情報データベースの地域情報学的新展開を探る」(研究代表者帯谷知可、2年間)を申請し、採択された。
(2)書誌情報整備の完了:書誌情報整備が完了したなら、データベースのリニューアルと合わせて改訂版索引を刊行し、それをもって現地還元することが可能である。
(3)TSをめぐる研究展開:書誌情報整備の完了の後に、今年度刊行のディスカッション・ペーパーで試みられたTSの構成分析(兎内)やインデクス分類カテゴリーの分析(帯谷)を完全版として行う必要がある。また、TS所収資料を足掛かりとしてロシア帝国の中央アジア統治に関連した個別の研究テーマ(例えば、帝政ロシアの中央アジアをめぐる「学知」「技術知」のネットワーク、それらの「知」のソ連時代・ポストソ連時代への継承と断絶など)を近年活性化しているロシア帝国論の分野での議論にそくして深める展望も開けてきた。そのような論考をディスカッション・ペーパー「『トルキスタン集成』が拓く世界」シリーズにおいて引き続き発表していきたい。