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南アジアの教育における新自由主義-私事化・市場化・国際化の地域間比較に向けて(h24)

過去の研究プロジェクト

南アジアの教育における新自由主義-私事化・市場化・国際化の地域間比較に向けて(h24)

個別共同研究ユニット
代表: 押川文子(京都大学地域研究統合情報センター・教授)
共同研究員: 黒崎卓(一橋大学経済研究所・教授)、柳澤悠(東京大学東洋文化研究所・名誉教授)、日下部達哉(広島大学教育開発国際協力研究センター・准教授)、佐々木宏(広島大学大学院総合科学研究科・准教授)、伊藤高弘(広島大学大学院国際協力研究科・准教授)、牛尾直行(順天堂大学スポーツ健康科学部・准教授)、南出和余(桃山学院大学国際教養学部・専任講師)、小原(伊藤)優貴(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科・学振特別研究員)、針塚瑞樹(九州大学大学院人間環境学研究院・助教)
期間: 平成24年4月~平成25年3月(1年間)
目的:  新自由主義的な政策潮流はインド・バングラデシュをはじめとする南アジア諸国の社会制度改革にも影響を及ぼしており、教育分野においても、私立学校や私企業の教育参入、学校選択制の導入といった教育の私事化・市場化をもたらしている。さらに、国際競争の激化にともないグローバルな教育システムとの連結を視野に入れた専門性の高い学位・資格の導入がなされ、近年では、試験制度改革をはじめとして質保証制度の本格的導入が図られている。その一方で南アジアでは、市場原理にもとづく競争を制限し、一元的評価や競争によって排除されがちな弱者層の教育機会の保証を試みる「インクルーシブ」な教育制度を指向する動きも強い。インドにおいては2009年に「無償義務教育に関する子どもの権利法」が制定され、バングラデシュではNGOや宗教系の学校が農村部や貧困層の教育を継続して担っている。本研究では、南アジアの新自由主義的な教育の動きとその社会的影響、および新自由主義に拮抗する教育改革や人々の対応を、他地域と比較を視野にいれて解明することを目的とする。
研究実施状況:  以下の研究会・ワークショップを開催した。ワークショップ開催に際しては、科研基盤(B)「南アジアの教育発展と社会変容」および九州南アジア研究会等と共催し、議論の広がりを求め、毎回、ラテンアメリカや中国、日本等を研究対象としている研究者を招聘して、新自由主義的改革の地域事例を相互に比較することを試みた。研究会では、成果出版に向けてその構成の検討とともに、後半ではドラフトの読み合わせを実施した。
第1回 研究会・ワークショップ 2012年5月20日(日)場所:地域研(稲盛記念館)
研究会:成果のとりまとめ・出版に関する検討
小出拓己(セイブ・ザ・チルドレン・ジャパン)「パキスタン・パンジャーブ州における識字教育」
ワークショップ:南アジアにおける「Inclusive Education」
古田弘子(熊本大学)「スリランカにおける障害児教育」
Thamburaj Robinson (Madras Christian College)「南インドにおける障害児教育」
第2回 ワークショップ 2012年7月21日~22日 稲盛記念館 
「南アジア教育の市場化・グローバル化―国際比較の視点から―」
趣旨説明: 押川文子
佐々木宏「続・田舎のMBA」
篠原清昭(岐阜大学)「中国における教育の市場化―学校民営化の実態」
コメント:南部広孝(京都大学)
小原優貴「インドにおける低授業料の私立学校と支援ネットワークのグローバル展開」
南出和余「バングラデシュの学校の市場化―私立学校とNGO学校の役割と位置づけ」
斎藤泰雄(国立教育研究所)「教育における国家原理と市場原理―チリの先駆的経験と教訓」
山本晃輔(大阪大学)「ブラジルの教育改革―格差をいかに克服するか」
コメント:村上勇介
第2回 研究会 成果出版にむけて 2012年10月27日 地域研(稲盛記念館)
成果出版物第一部の読み合わせ (押川、南出、黒崎)
第3回 ワークショップ「南アジアの若者論:日本、中国との比較の視点から」
2012年12月9日 地域研(稲盛記念館)
趣旨説明 押川文子・南出和余
書評報告 佐々木宏 Craig Jeffrey 2010, Timepass: Yough, Class, and the Politics of Waiting in India, Stanford UP
書評報告 水澤純人(ASAFAS 後期課程) Craig Jeffery, Patricia Jeffery, Roger Jeffery 2008, Degrees without Freedom? Education, Masculinities and Unemployment in North India, Stanford UP
南出和余 「出稼ぎと家出文化―農村から都市・海外へ出るバングラデシュの若者たち―」
針塚瑞樹 「若者の生活実態・意識・進路選択―タミルナドゥ州チェンナイの工学系学生の事例」
村澤和多里(札幌学院大学)「日本における戦後青年期の履歴―高度成長期からポストモラトリアム時代へ」
満都拉(東京大学) 「在日中国人留学生の現状と課題―高卒留学生に着目して―」
第3回研究会 成果出版に向けて 2012年1月13日~14日 東京大学
全員による成果出版ドラフトの読み合わせ
第4回 ワークショップ 2013年2月17日 九州大学箱崎文系キャンパス
「南アジアの映画に観る教育・子ども・若者の表象」
趣旨説明 押川文子・針塚瑞樹
桑原知子(熊本学園大学非常勤講師)「English Medium School 時代の母語のゆくえ─映画が描くタミル語と学校─」
押川文子「映画から読むインド社会イメージ―女性と若者―」
南出和余「バングラデシュ映画に示される「子ども」の諸相」
研究成果の概要:  本ユニットの目的は、現在、南アジアで拡大している「教育をめぐる新自由主義的な状況と教育改革」を、世界の多くの地域で進行している同様な動きと比較検討し、その共通点と特質を考察することにあった。主要なファインディングスは以下の通りである。
①新自由主義的な教育改革、すなわち教育の一定の市場化、能力主義の導入、それにともなう質保証制度(許認可制度等)の導入、グローバル化促進等の動きは、先進国の多くと同様に、BRICS等経済成長の著しい地域においても、経済成長の要件として似通ったパッケージの導入が図られている。また国際機関やNGOが学校教育普及の担い手であったバングラデシュでは、私立学校の増加がみられる一方で政府系学校の強化策や教育行政整備が進行しており、この事例を含めて途上国の教育における担い手の構成は、市場、国家、市民社会の連携に向かっている。
②しかし、その実態をみると、(1)国民間の融合、あるいは格差問題の政治的重要性の違いや政治状況、(2)教育普及水準の相違、(3)教育の担い手(学校、NGOなど)の成熟度や「子ども中心主義」を基調とする国際的な開発教育パラダイムの浸透度等によって、異なる地域的パターンが認められる。急激な経済発展を経験しているブラジル、およびインドでは、国民間の大きな教育格差を背景に教育改革における「平等化」が制度設計にも重要な論点となり、またすでに高い水準の教育普及を実現した台湾などではむしろ先進国型の教育の多様性確保が課題となってきている。そのなかで、社会主義体制のもとで一定の教育の平準化と選抜システムが完成した中国における急激な教育の市場化が際立った対照例となっている。
③南アジアのみならず今回議論の対象とした国においては、教育、とくに高等教育の普及と新自由主義を経た経済状況や不安定な雇用市場を反映しながら、親世代とは異なる価値観や行動様式をもち、また豊かさや一定程度整備された福祉を前提とする先進国のそれとも異なる青年期が出現しつつある。
公表実績: ①ワークショップについては、地域研ホームページ、南アジア学会メイリングリスト等を通じて開催案内を公開し、参加者を受け付けた。
②平成25年度内の出版を目指して、原稿を取りまとめ中である。
研究成果公表計画今後の展開等:  本ユニットにおける検討を踏まえて、H25-26年度の地域研共同研究個別ユニットとして、「ポスト・グローバル化期の教育に関する国際比較:新自由主義、子どもの権利、国家の役割の再編」を実施する。対象地域は、南アジアと同様な動きがみられるラテンアメリカ(とくにブラジル、ペルー)、教育発展の進むなかで市場化が進行している東南アジア、体制転換を経た中東欧、さらに中国・台湾を想定しており、学校の市場化、能力主義と選抜制度(試験制度改革)、高等教育改革、教育イデオロギーの再編、などといった具体的な課題に即して、地域間比較を行う。