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中東地域における経済自由化政策をめぐる受容と抵抗——比較政治研究——(h24)

過去の研究プロジェクト

中東地域における経済自由化政策をめぐる受容と抵抗——比較政治研究——(h24)

個別共同研究ユニット
代表: 末近浩太(立命館大学国際関係学部・准教授)
共同研究員: 青山弘之(東京外国語大学大学院総合国際学研究院・准教授)、荒井康一(上智大学アジア文化研究所・プロジェクト研究補助員)、今井真士(上智大学外国語学部・日本学術振興会特別研究員)、小副川琢(東京外国語大学中東研究日本センター・研究員)、吉川卓郎(立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部・准教授)、菅瀬晶子(国立民族学博物館・助教)、髙岡豊(財団法人中東調査会・研究員)、辻上奈美江(高知県立大学文化学部・講師)、中村覚(神戸大学大学院国際文化学研究科・准教授)、浜中新吾(山形大学地域教育文化学部・准教授)、堀拔功二(日本エネルギー経済研究所 中東研究センター・研究員)、松尾昌樹(宇都宮大学国際学部・准教授)、村上勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、山尾大(九州大学大学院比較社会文化研究院・講師)、横田貴之(日本大学国際関係学部国際総合政策学科・准教授)
期間: 平成24年4月~平成25年3月(1年間)
目的:  2011年2月にムバーラク大統領が辞任し、その後与党国民民主党が解体されたエジプトはかつて構造調整プログラムを受け入れ、経済自由化を断行していた。エジプトに先行して大統領の辞任に至ったチュニジアでも政府部門の縮小と民間部門の振興を図っていた。今世紀に入り湾岸諸国を中心に好況の恩恵を受けていた中東諸国の市場も、2008年に発生した世界的な金融危機の影響から逃れることはできなかった。経済自由化後の中東政変という一連の動向は南米における民主化プロセスを彷彿させるものであり、強い学問的関心を惹きつけるものだと言える。一方、経済自由化に抵抗して社会主義的経済を存続させたシリアは民衆デモを暴力で弾圧し、権威主義体制の維持を図っている。
 本研究会は経済自由化に対する過去の対応を鑑みて、中東諸国における政治的状況およびそれが社会にもたらした影響について検討し、中東諸国の政治体制変容について理論的かつ個別事例の分析を進めることを課題とする。
研究実施状況:  本年度は次の通り、3回の研究会を実施した。
第1回 2012年12月15日(立命館アジア太平洋大学)
・中村覚「新オムニバランシング論と予防外交:サウディアラビアのシリア政策を事例に」
・松尾昌樹「湾岸アラブ諸国における権威主義体制:移民、労働市場、産業構造の観点から」
第2回 2012年12月16日(立命館アジア太平洋大学)
・石黒大岳(ゲストスピーカー)(九州大学)「民主化過程における司法の介入:クウェート国民議会解散をめぐって」
・清水雅子「選挙後危機と権力分有取り決め:パレスチナ挙国一致合意とその行き詰まりをめぐる政治過程」
第3回 2013年3月2日(京都大学東京オフィス)
・今井真士「中東地域の事象を比較政治学の俎上に載せるということ:エジプト第二共和政の論点整理」
・石黒大岳(ゲストスピーカー)(九州大学)「クウェートにおける選挙制度の変遷と2つの第14期国民議会選挙」
・青山弘之・髙岡豊「シリア第 10 期(第 1 期)人民議会選挙に関するデータおよび研究状況」
・浜中新吾「イスラエル2013年選挙の考察」
・荒井康一「トルコにおけるAKPの政権獲得と阻止条項つき比例代表制」
研究成果の概要:  研究会はワークショップ形式で行い、経済自由化の進む中東各国における政治・社会的動態について議論を重ねた。
 第1回研究会では、「中東政治研究のリサーチデザイン」と題して、主に湾岸アラブ諸国における内政・外交についての新たな研究課題の設定および分析視角の提示をめぐる可能性を扱った。サウディアラビアの外交方針の特徴を新オムニバランシング論を通して浮き彫りにした上で、2011年からのシリア情勢への関与を事例にそれが中東地域の安全保障にどのように関与しているかが議論された。また、オマーンとバハレーンの権威主義体制の柔靱性について、主に統計データを用いながら移民・労働市場・産業構造の変化から解明する新しい研究が提示された。
 第2回研究会では、一定程度の民主化を果たしているパレスチナ自治政府とクウェートにおける議会政治のあり方に焦点を合わせ、それぞれのケースにおける政治エリートや政党間の権力分有と闘争の実態が報告された。
 第3回研究会は、「中東諸国における選挙制度の比較研究」と題して、2000年代まで研究対象としてほとんど扱われてこなかった中東の権威主義体制における選挙制度の実態について、選挙法、選挙制度、選挙結果、有権者の投票行動、政党の選挙戦略など具体的な情報を各国研究者のあいだで共有することを目的とした。こうした比較研究の視座からそこで浮き彫りになったのは、選挙が多くの国において民主化を促進するものとなりつつあると一方で、権威主義体制を維持するものとして利用されているなど、各国のあいだで実態もそれを解明するための問題設定やアプローチも多様化している現実であった。選挙は、これからの中東政治研究において重要なトピックとなるように思われる。
公表実績: ・第1回研究会(2012年12月15日 於立命館アジア太平洋大学)を「APUリサーチオフィス・社会連携セミナー」(学部生・大学院生・一般参加者を対象とした公開セミナー)との共催とした。
・石黒大岳『中東湾岸諸国の民主化と政党システム』(明石書店, 2013年)
・中村覚「サウディアラビアによるシリア危機への対応:中東域内政治と予防外交の観点から」『中東研究』516号
・青山弘之「「アラブの春」の通俗的理解がシリアの紛争にもたらした弊害」『中東研究』516号
研究成果公表計画今後の展開等:  本研究ユニットは中南米と中東との比較研究のかたちで継続される(「中東とラテンアメリカにおける体制転換の比較研究」研究代表者:村上勇介・末近浩太)