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中東欧・ロシアにおける新自由主義的政策の理念と実態(h24)

過去の研究プロジェクト

中東欧・ロシアにおける新自由主義的政策の理念と実態(h24)

個別共同研究ユニット
代表: 仙石学(西南学院大学法学部・教授)
共同研究員: 上垣彰(西南学院大学経済学部・教授)、小森宏美(早稲田大学教育・総合科学学術院・准教授)、仙石学(西南学院大学法学部・教授)、林忠行(京都女子大学現代社会学部・教授)、村上勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授))
期間: 平成24年4月~平成25年3月(1年間)
目的:  本研究は前身となる現在の個別研究ユニット「中東欧・ロシアにおける新自由主義的政策の展開とその帰結」を発展・展開させる研究プロジェクトである。現プロジェクトにおいては複合ユニット「新自由主義の浸透と社会への影響に関する地域間比較研究」および個別ユニット「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」と協力しながら、1980年代から1990年代にかけて民主化・市場化を進め、かつその過程において様々な形での「新自由主義」の影響を受けてきた中東欧・ロシアの諸国とラテンアメリカの諸国における新自由主義の現れ方の共通性、あるいは地域ごとの相違について検討を進めてきたが、ここまでの比較研究を通して(1)新自由主義的な政策の各国における現れ方には国ごとの相違があるが、その相違は各国の歴史的な背景や経路依存性と密接な連関があること、(2)新自由主義的な政策の実施は一時的な政治的不安定を招くものの、長期的には新自由主義の行き過ぎを抑える動きの表出を通して各国の政治を安定させる可能性があること、および(3)新自由主義的な政策には「功罪」の両面があり、格差の拡大や貧困の増大など負の側面のみをみていたのでは、新自由主義的な政策の「成功」面を見落とす可能性があること、が明らかにされた。この成果を踏まえて本研究ユニットでは、各国における新自由主義的政策の実施の背景、特に新自由主義的な政策が受け入れられる時に政治リーダーにより共有される理念、および新自由主義的な政策が実施された場合の実際の成果について、中東欧・ロシアの事例を中心として、ラテンアメリカとの比較も視野に入れながらより具体的な分析を行うことを試みることを目的とする。
研究実施状況:  本年度も前年度のプロジェクト(中東欧・ロシアにおける新自由主義的政策の展開とその帰結)に引き続き、同じ京都大学地域研究統合情報センターの複合共同研究ユニット「新自由主義の浸透と社会への影響に関する地域間比較研究」に属する個別研究ユニット「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」との共催で、「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会を2回実施した。
・第1回(「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」第9回研究会)
日時:2012年9月29日土曜日 15:00から18:00
場所:京都大学地域研究統合情報センター 3階中会議室
テーマ:「新自由主義時代における年金制度改革の比較」 (若手研究者報告会)
報告者および報告タイトル
柳原剛司(松山大学)「ハンガリー年金制度の部分的民営化の失敗と改革議論」
馬場香織(東京大学大学院)「ラテンアメリカにおける年金制度『再改革』?
第一世代改革の経路とその刻印を中心に」
コメント 宇佐見耕一(アジア経済研究所)   
・第2回(「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」第10回研究会)
日時:2013年3月24日日曜日 13:00から17:30
場所:京都大学地域研究統合情報センター 3階中会議室
テーマ:「ネオリベラリズムと政党政治?
政党の指向性と実際の政策にずれが生じるのはなぜか」
報告者および報告タイトル
村上勇介(京都大学)「ラテンアメリカにおける政党指向と政策のギャップ─ペルーとホンジュラスの事例から」
横田正顕(東北大学)「現代イベリア政治における政党イデオロギーの偏移と遷移」
小森宏美(早稲田大学)「エストニアの『新自由主義的』政策を支える諸要因と抵抗」
コメント 林忠行(京都女子大学)
司会 仙石学(西南学院大学)
 またあわせて、「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」ユニットとの共同研究の成果となる論文集『ネオリベラリズムの実践現場』(7を参照)の作成および編集作業を昨年度に引き続き実施した。こちらは3月29日刊行の予定である。
研究成果の概要:  5.に掲載した2回の研究会では、前の研究ユニットに引き続いて中東欧とラテンアメリカにおけるネオリベラリズムの実際についての検討を行った。第1回の研究会においては若手報告者による両地域の年金制度改革に関する議論を行い、そこでは両地域における年金制度改革は必ずしも「ネオリベラル的」と称される方向に改革が行われているわけではないこと、およびそれぞれの地域の中でも相違があり、むしろそれぞれの国において改革が行われる理由、あるいはその方向性を検討する必要があることが明らかにされた。第2回の研究会においては、これまでの研究の総括としてラテンアメリカ、エストニア、および比較参照事例としてのスペイン・ポルトガルを題材として、政党の政策指向と実際に行われる政策の「ずれ」についての検討を行い、そこから現在では(1)国際金融の作用、および政策のテクノクラート化により、政党が実際に採択できる政策の幅は限られているため、いかなるレトリックを用いても選挙後には一定の政策を採択せざるをえなくなっていること、(2)「左派」・「右派」という看板の指し示すものが曖昧になり、いずれの側もどのような形で自己の定義を行うかということで揺らぎが生じていること、(3)ネオリベラリズムは一般に否定的なものとしてとらえられがちだが、いずれの地域においてもネオリベラル的な政策には一定の支持が存在すること、などが明らかにされた。
 またこれまでの成果をまとめた論文集『ネオリベラリズムの実践現場』においては、それぞれの地域におけるネオリベラリズムの現状についてより詳細な検討が行われたが、そこでは「それぞれの地域の中における多様性」と、「地域を越えて現れる多様化の共通性」が明らかにされた。この点に関するより具体的な検討は、次期の研究ユニットにおいて引き続き検討していく予定である。
公表実績: ・5.に上げた研究会の他、仙石および「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」ユニット代表の村上勇介(CIAS)を編者として、論文集『ネオリベラリズムの実践現場?中東欧・ロシアとラテンアメリカ』(京都大学学術出版会)を作成し、これをCIASの出版助成制度により地域研叢書「地域研究のフロンティア」の1冊として公刊した(2013年3月刊)。
研究成果公表計画今後の展開等:  今年度の研究成果、およびその成果のラテンアメリカ諸国の事例との比較を通して、ネオリベラリズムの実際のあり方には「地域内における多様性」と「地域をこえて現れる共通部分」が存在することが確認できたが、次年度以降はそのような「多様性」と「共通性」が現れる理由について、より多角的な比較を行うことを試みたい。具体的には、2013年度に開始となる新規研究ユニット「地域内多様性と地域間共通性の比較政治経済分析?ポスト社会主義国を軸として」において、社会主義体制が解体した後の中東欧諸国の政治経済の枠組にを事例として、これを他の地域のポスト社会主義国、および社会主義国ではないが、1970年代以降に民主化したラテンアメリカや東アジアの諸国の事例との比較の中で検討し、「地域内における多様性」と「地域を越えた共通性」との関係を考えていくことを試みている。またその際、新しいプロジェクトでは政治経済に関する具体的な制度および政策に焦点を当てて、実証的で具体性のある比較分析を継続していくこととする。