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相関型地域研究による総合的マツタケ(Tricholoma spp.)学の創成(h24)

過去の研究プロジェクト

相関型地域研究による総合的マツタケ(Tricholoma spp.)学の創成(h24)

個別共同研究ユニット
代表: 大石高典(京都大学・アフリカ地域研究資料センター・研究員)
共同研究員: AnnaTsing(カリフォルニア大学サンタバーバラ校・教授)、大月健(京都大学附属図書館情報管理掛・職員)、小原弘之(同志社女子大学・名誉教授)、小島敬裕(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)、斎藤暖生(東京大学大学院農学生命科学研究科・助教)、佐塚志保(トロント大学人類学部・助教)、田中泰信(龍谷大学大学院経済学研究科・特別専攻生)、林剛平(京都大学大学院農学研究科・大学院生(修士課程))、MichaelHathaway(サイモン・フレーザー大学人類学社会学部・准教授)、山口哲由(愛知大学国際中国学研究センター・研究員)、山中高史(森林総合研究所・チームリーダー)、吉村文彦(京都学園大学バイオ環境学部・非常勤講師)
期間: 平成24年4月~平成25年3月(1年間)
目的:  マツタケはマツ科マツ属などの樹木と共生関係をもつ菌根菌であり、環太平洋から地中海沿岸や北欧まで、世界各地からマツタケの発生が報告されている。マツタケの主要な消費地域は日本だが、1960年代のエネルギー革命とそれに続く農林業の衰退により、日本の代表的な里山林の一つであると同時にマツタケの生産環境であったアカマツ林が著しく減少し、マツタケ生産量は激減した。同時にマツタケの輸入が増えた。朝鮮半島、中国雲南省など東アジアだけではなく、北アメリカ、中米メキシコ、トルコ、モロッコやアルジェリアなど地中海沿岸から北アフリカ、北欧スカンジナビア半島にいたる広範な地域でマツタケが採取され、日本へ輸入されている。
本研究では、これら各地域において生起しているマツタケをめぐる諸現象を、1) 生態環境とヒューマン・インパクト、2) 流通の政治経済、3) 人の移動と食文化の各レベルで把握することにより、地域間を比較しつつ、地域間の相互作用を動態的に描き出す。
研究実施状況:  研究代表者の大石は、フランス・モンペリエで開催された国際民族生物学会に参加し、日本に置ける里山植生の変化とマツタケ食文化の変化について報告した。これにより、南ヨーロッパおよび地中海地方だけでなく、北欧、北アフリカおよび中米メキシコの野生菌類やその栽培に関心をもつ研究者らと情報交換を行った。また、フランス科学研究センターでは、トリュフに関する生態学的、社会学的研究蓄積があるが、マツタケと同様にエネルギー革命前後に生産量が激減したものの、栽培技術の進展に伴い生産量の拡大がみられていることなど、きのこ産地の形成において共通点と相違点があり、聞き取り調査と文献収集により予備的な比較を行った。共同研究者の山中は、マツタケの完全人工栽培の基礎となる基礎研究を進め、マツタケ感染後のアカマツ実生における外生菌根形成に関する新知見を得た。共同研究者の佐塚は、京都市内を中心に展開されている里山再生のための市民運動「マツタケ十字軍運動」への参与観察により得たデータの分析を進めた。共同研究者の林は、東京電力福島第一原発事故による野生菌類の汚染実態の問題を追究した。
研究成果の概要:  中米メキシコの民族生物学研究者からは、メキシコにおけるマツタケ研究の現状について知見が得られた。メキシコにおいてマツタケの産出が多いのは、中国雲南低地部と同様にブナ科とマツ科の混合植生帯であり、日本や韓国の一部におけるような集約的な努力によってマツ科植生が維持されているわけではないらしい。今後、現地踏査を行うことにより確認する必要があるが、この情報は、世界中のマツタケ産地で極度の人為によりホスト植物とマツタケの関係を形成することにより生産林を維持する栽培文化を形成してきたのは日本と朝鮮半島の一部のみであることを支持するものである。今年度後半には、これまで報告のなかった朝鮮半島北部におけるマツタケの地理的分布、および生産上の諸問題について、2011年にマツタケ研究国際会議にともに参加した現地のきのこ研究所の研究者から報告論文を得たが、同地域においても森林に手を入れることにより継続的な増産の努力が一定程度なされてきたようである。なぜ、東アジアの一部のみでヒトによる農耕活動とマツ科植物とマツタケの関係が共生的ともいえるほどに発達したのかは検討の余地があるが、朝鮮半島の一部におけるマツタケ生産林の管理技術は、マツタケ食文化とともに日本の植民地時代にさかのぼる可能性がある。共同研究者のHathawayによれば、雲南においても1900年以前から日本とのマツタケ交易があったという記録の存在が指摘されている。このように、地域相関的に人間とマツタケの関係を考える際には現在の両者の生態学的関係や森林産物としての経済的位置づけだけでなく、歴史的なアプローチを加味することが重要である。メキシコにおいても、中国や北米と同様に、従来マツタケの消費は低調であったようだが、日本への輸出のため経済的な価値が高騰し、地域市場でも少しずつ消費されるようになっているという。ただし、調理法や現地の食文化における位置づけなどは不明である。今後の継続的な調査研究が待たれる。
公表実績: (1) 学術論文出版:
Yamanaka T, Maruyama T, Yamada A, Miyazaki Y, Kikuchi T. (2012) Ectomycorrhizal formation on regenerated somatic plants of pines after inoculation with Tricholoma matsutake. Mushroom Science and Biotechnology 20, 93–97.
Ota Y, Yamanaka T, Murata H, Neda H, Ohta A, Kawai M, Yamada A, Konno M, Tanaka C. (2012) Phylogeny of the mycorrhizal gourmet mushrooms “matsutake” based on nucleotide sequences of multiple genes and genetic elements. Mycologia 104, 1369–1380.
Satsuka, S. (2012) Biodiversity in Satoyama Conservation: Aesthetics, Science, and the Politics of Knowledge. Rachel Carson Center Perspectives 9: Why We Value Diversity?: Biocultural Diversity in a Global Context, 79-82.
ほか9件。
(2) 国際学会における発表:
Oishi Takanori (2012) Breakdown of Japanese Satoyama ecosystem and contemporary change of Matsutake mushroom (Tricholoma matsutake (S.Ito & S.Imai) Sing.) food culture. The 13th Congress of the International Society for Ethnobiology, May 20-25th, 2012, Montpellier, France.
Satsuka, S. (2012) ‘Propane Ate Mushrooms’: Knowledge Translation in the Forest Revitalization Movement in Japan. Society for Social Studies of Science (4S) Conference, Copenhagen, Denmark.
Satsuka, S. (2012) The Charisma of Mushrooms: The Multiple Rhythms and the Time to Live with Others. American Anthropological Association Annual Meeting, San Francisco, USA.
ほか7件。
(3) 国内研究集会における発表:
林剛平、今中哲二、沢野伸浩 (2012)「GIS技術の環境放射能解析への応用」第14回環境放射能研究会、高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)。
研究成果公表計画今後の展開等:  本共同研究は、今年度で終了であるが2013年度以降、準備を続けてきた和文、英文での成果単行本の刊行を行うため、民間財団助成金などを取得して研究活動を継続する予定である。