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異宗教・異民族間コミュニケーションにおける共生の枠組と地域の複相性に関する比較研究(h24)

過去の研究プロジェクト

異宗教・異民族間コミュニケーションにおける共生の枠組と地域の複相性に関する比較研究(h24)

個別共同研究ユニット
代表: 王柳蘭(京都大学地域研究統合情報センター・日本学術振興会特別研究員RPD)
共同研究員: 李仁子(東北大学大学院教育学研究科・准教授)、今中崇文(総合研究大学院大学文化科学研究科・博士課程)、紺屋あかり(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・博士課程)、砂井紫里(早稲田大学イスラーム地域研究機構・研究助手)、中山大将(北海道大学スラブ研究センター・PD)、縄田浩志(総合地球環境学研究所研究部・准教授)、比留間洋一(静岡県立大学大学院国際関係学研究科・助教)、藤本透子(国立民族学博物館・機関研究員)、三田牧(大阪大学文学研究科・日本学術振興会特別研究員RPD)、南出和余(桃山学院大学国際教養学部・講師)、山田孝子(京都大学大学院人間・環境学研究科・名誉教授)
期間: 平成24年4月~平成25年3月(1年間)
目的:  欧米の多文化主義の影響を受けて、日本においても1990年代以後から多文化共生にもとづく地域形成に強い関心が高まっている。しかし世界の現実は、宗教間・民族間の対立や紛争、内戦とそれに伴う治安悪化、社会不安などによって、異質な人間集団、文化体系を包括しうるような共生の枠組みが用意されているわけではない。本研究の目的は、多元的な関係性のなかにおかれた地域を前提に、異宗教・異民族間コミュニケーションにおける共生の枠組みや文化装置、それらを結ぶ行為主体に着眼することを通して、多様で流動的な民族集団によって立ち現れる複相的な地域の在り方、その秩序原理や社会構造を比較することにある。
 具体的には家族、宗教、食事、詠唱、教育、歴史的記憶、生態などにみる共生の枠組みや文化装置を取りあげ、研究対象は女性、移民、子供、宗教従事者など多角的な視点から検討する。地域間の比較を行うため、対象地域は中東、内陸アジア、東・東南アジア・北東アジアならびにその境域 [林2009]を中心に設定している。
研究実施状況:  研究会は計6回以下のように実施した。第1回2012.5.20王柳蘭「越境によって複相化する地域で共同性はどのように生まれるのか―北タイからの問題提起」中山大将「多数エスニック地域としてのサハリン島の共生と国境変動」縄田浩志「スーダン東部ベジャ族の諸儀礼と“民族言葉”発話時に見る民族間関係と人間・家畜関係の動態」第2回2012.6.30山田孝子「人類学フィールドワークから共同性を考える」三田牧「あなたとわたしの過去が出会う―日本統治下パラオをめぐる記憶から歴史共生へ」砂井紫里「もうひとつの『回族コミュニティ』―中国福建回族のイスラームの記憶と食事実践」第3回2012.10.20南出和余「ブジナイ(分からない)から仕方がない―バングラデシュ社会の他を受け入れる装置」今中崇文「変容する都市の回族コミュニティ―西安回族のアイデンティティと宗教実践」第4回2012.12.8村上直之「見立てと日本的文化変容」第5回2013.2.23紺屋あかり「パラオ現代アートにみる口承伝承の実践」藤本透子「カザフ・ディアスポラの宗教動態―複相化する地域社会の分析へ向けての試論」瀬戸徐映里奈「『食の確保戦略』からみるベトナム難民の定住過程と地域社会への影響―兵庫県姫路市を事例として」第6回2013.3.7李仁子「日本在住脱北者の定着過程にみられる多様性」比留間洋一「在日ベトナム人社会の変貌―2つのエスニック・メディアの分析」
研究成果の概要:  歴史的社会的変動が激しい研究対象、とくに国境地域や越境集団は、環境変動下の社会状況下において、共通の文化的要素によって共同性構築へのベクトルがはたらく反面、民族内部に現れた多様な差異と文化的コミュニケーションの欠落によって共同性を維持することが困難な状況にも直面しやすい。本研究会では、コミュニケーションの多相的な現れ方と共同性をテーマに比較研究を行い、以下の点が明らかになった。
1)環境変動下における共同性の維持・創生に果たす宗教等の文化装置の役割
国境が接触するボーダーは、故郷を失った避難民があらたな活路をもとめて定着する場であり、また多様な生態的・経済的資源へのアクセスを求めて複数の民族が離合集散する場である。環境変動を受けやすい地域社会において、宗教、食事、言語等の文化装置は、集団内の安定や共同性を創出するうえで重要な機能をもっている点を確認した。事例:北タイ国境の中国ムスリム越境社会、中国沿岸部の多出自のムスリム社会、モンゴルと中央アジア間のカザフ・ディアスポラ、インド・ラダック社会、北東アフリカ紅海沿岸部ベジャ族。
2)適応過程の多様性と人間関係資本の創出
民族集団の共同性や生存維持を決定づけるのは、集団内部における文化装置の維持のみならず、民族集団外部への多様な社会関係資本等へのアクセスと開かれたネットワークであることを確認した。事例:在日脱北者社会、在日ベトナム人社会、在都市部の中国ムスリム、パラオの口承伝承と民族芸術など。
3)共同性の困難
植民地経験や国家体制の変動を経験した越境集団においては、同一民族集団内においても歴史的社会的リスクへの適応の諸過程には多様性があり、集団としての共同性を維持するのはむしろ困難な場合がある。本研究会では、日本やロシアの支配を受けた在サハリン韓人社会の集団内における自己認識の多様性や、パラオと沖縄を隔てる植民地経験の歴史認識のズレにみられる共同性構築の困難を確認した。
 今後の展望:共同性について問うべきは、ハイリスクな社会状態も含めた民族集団や行為主体の生存維持や共生の在り方である。今後は、①共同性の取捨選択・集団の分離や接合の要因とそれを支える社会的歴史的条件、②同一・均質的な共同体といったイメージを前提とするのではなく、共同体内の多様性の確保の在り方とその通時的変化、③行為主体が共同性の消失といったリスクをどのように回避し、共同性を回復しようとしているのか、④その際に動員される文化装置や人間関係などの社会資本の在り方、といった点についてさらに共同研究をする必要がある。
公表実績:  2013年度内にCIASディスカッションペーパーとして成果を公表する予定である。
研究成果公表計画今後の展開等:  異なる社会的歴史的条件に生きる少数派の人々を地域の「主人公」とし、その「物語」を紡いでいく歴史的文化的作業と共生の枠組みの比較研究をさらに発展させていく必要がある。「内発的共生と複相化する秩序」と題して学会などにおいて分科会、あるいはワークショップを企画することによって、研究成果を整理・発信すると同時に、地域と民族の共生をめぐる普遍的な課題を実証的なフィールドワークと地域間比較を通じてさらに追求していきたい。また、越境によってボーダレス化するアジアを理解するうえで、日本社会が経験しつつある多文化化と共生をめぐる諸課題を他地域と比較研究することは不可欠である。研究者自身の置かれた社会的文化的環境を再考し、調査対象との関わりの接点を問い直す学術的営為についても、さらに検討していきたい。